監査役の仕事は、全ての経験が活きるシニア向きの仕事

小山 康弘さん(70歳)
全ての経験が活きる、監査役の仕事
前職
管理担当役員
現在
ネット系サービスベンチャー企業監査役
プロフィール:
1945年生まれ、70歳。東京出身、都内在住。

小山さんは、大学卒業後新卒社員として銀行に入り、預金・外為・企業融資等の銀行業務に従事。30年ほどの勤務の間に、2度海外勤務(ロスアンゼルス5年、サンフランシスコ3年)を経験。
2000年55歳で中堅商社に転職。管理担当役員を勤めた。
2005年同社を役員定年で退職し、現在のネット系サービスベンチャー企業監査役へ。

50代で銀行勤務から中堅商社へ初めて転職

55歳で転職

銀行勤務の常で、50代になると関連会社や子会社への出向・転籍が多くなります。そんな時、先輩から声をかけてもらい、先輩が社長を務めていた中堅商社に55歳で転職しました。
同社では管理部門担当役員を務めました。同社での仕事は銀行時代の経験を活かすことに加え、新たにチャレンジした部分が大きいと思います。同社はジャスダックに上場しており連結決算、四半期決算や情報の適時開示など上場企業として多くの規約を常にクリアして行く必要がありました。上場企業の管理業務全般を、具体的に身をもって体験できた貴重な職場でした。

定年退職後にタイミングよくネット系サービスベンチャー企業の監査役に

2005年に60歳で同社の役員定年を迎えましたが、顧問等を経て60代前半でリタイアするより、せっかく上場企業の管理部門を全般的に経験できたので、これを活かせるような仕事があるのではないか。銀行時代のつてや、個人的な知り合いに声をかけてみました。
たまたまタイミングよく、上場を目指すネット系サービスベンチャー企業が常勤監査役を探しており人づてに紹介されることになりました。
転職の決断は、会社の概要、社長の人物重視で、相性が大きいと思います。また同社の経営が上場準備ができるレベルに達しているか、組織作りに向けて自分自身のこれまでの経験が役に立つかどうかなどを勘案して決断しました。

銀行時代に、社会人の基礎を叩き込まれました

特に専門を持たないジェネラリストの銀行時代に学んだ「組織の一員としてチームワークを大切にする基本」が社会人としての自分の骨格を作っていると思います。
朝、率先して職場で明るい声であいさつする。会議に時刻しない。当たり前の、この社会人の基本が今でも大切だと思います。
ただベンチャー企業への転職に際しては大組織の銀行時代の経験では不十分であり、直前の上場企業の管理担当業務の5年間が業務知識を中心に、大きな力となりました。

ベンチャー企業では、まだ何もないところに組織自体から作っていかなければならない時もあります。ゼロから1を生み出す作業が必要ですね。また、人材の絶対数も少なく、それぞれのバックグラウンドもバラバラです。個別の事情を見ながらバランス良くまとめていく地道な作業を求められます。本来業務執行を担当しない監査役も時には、足りない部門のサポート役として柔軟に自ら動く必要もあるでしょう。

管理系の要の人である監査役

現職の監査役になって、公益社団法人日本監査役協会に加入しました。同協会は約6000社ほどが加盟している協会で、企業規模、業種などで異なる部会を持ち、運営しています。部会で幹事などを務め、同業の知己が増えました。同じ部会の仲間が100人ほどいまして、今年70歳の自分よりも年長の多様な社会経験を積んだ会員が少なからず活躍されています。
監査役の仕事は会社経営が法令を守って適切に行われているか監視監督することですが、会社の規模や組織の成り立ちなど、個別の監査環境を理解した柔軟な対応・応用動作が必要となります。

とくに中小企業やベンチャーでの監査役は管理部門にはあまり力を割けない社長をサポートして管理部門の整備を手伝ったりコーポレートガバナンスを主導したり、社長と力を合わせ、会社の目指す基本方針を実現して行く役割を担います。いわば“管理系の要の人”。
もともと監査役を目指してなる人はいませんが、やってみると監査役はなかなか面白い職種です。社長になりたいとか、営業をやりたいというのが自然ですね。監査役は株式会社に必要な仕事ですが、企業に入って、自分がやってみないとその大事さや責任・やりがいがわからない仕事といえるでしょう。
私も、いろいろな失敗や経験を積んできました。その一つ一つが役立つ職種が、監査役だと思います。事業を通じて社会に貢献しようとする経営者の問題意識を理解し共有できる多様な社会経験のある年長者向き、中高年向きの職種です。

同期は半数以上が完全リタイヤ・生活とのバランスを

監査役は会社法の改正や毎年のように変わる税制や管理業務のアップデートなどがあり、日々勉強・研鑽を求められます。職務上期限を決めて準備をしなければならないことなど適度の緊張感が毎日に張り合いをもたらしていることは間違いないと思います。最近、適度なストレスは体にいいという書籍がベストセラーになりました。この緊張のかたわら、趣味などで気分転換、今風に言えば和む時間を作ればよいと思っています。

私の趣味は、あまり大きな声では言えないのですが、7~8年前から楽器を練習しています。なかなか上達とまでは行かないのですが、練習した曲が流れたりすると嬉しい気持ちが湧いてきますね。

スポーツは以前は人並みにゴルフをしていましたが今はもっぱら健康維持のためにウォーキングを続けています。
現在の勤務状況は常勤で毎日出社しています。監査役は就業時間にとらわれることはないのですが、社員の働き方や空気感を身近に感じられるよう、基本的に会社の就業時間通り朝9時30分には出社し、社内スケジュールに合わせて関係会議等に出席しています。長期休暇も年に1~2度ほど。1周間休む程度ですね。海外旅行や温泉などを家族と楽しんでいます。

私の同期は、現在半数以上が完全リタイアしています。私のように働いていて、さらに常勤というのは例外的になってしまいました。しかし、私の場合は、早く仕事を辞めてゴルフ三昧したい、というような趣味がなかったことも大きいと思います。無理のない範囲で社会のお役に立ち、なにがしかの収入も得られる今の生き方は大変ありがたく、感謝の気持ちを一番に感じています。

転職を考えておられる中高年の方にアドバイスをお願いします。

サラリーマンは、50歳代中ごろから個人差が大きくなってくると思います。健康状態や気力・気持ちの持ち方に大きな差が出てきます。そこで口幅ったいことを申し上げるようで恐縮ですが、50代、60代での転職ではまず自分の自己座標、立ち位置の確認、棚卸しが有効だと思います。自分の立ち位置はそれまでの経験や価値観・家族構成などで、その優先順位は個人差があると思います。それを考えて自分の行きたい方向はどちらか考えてみてはいかがでしょうか。監査役も一つの選択肢になると思います。