小中高の先生、大量定年で平均年齢が低下、求められるベテランのノウハウ

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近年、小学校、中学校、高校に勤める教員の平均年齢は低下してきました。70年代の第二次ベビーブームに対応するため大量に採用した教員が定年退職を迎えたことがその主な理由です。

歴史的転換を向かえる教員の年齢構成変化

教員の平均年齢の推移

文部科学省の学校教員統計調査では、国公私立のすべての教員の平均年齢は、2013年度に小学校が44.0歳、中学校が43.9歳、高校が45.3歳といずれも過去最高だった前回の2010年度に比べて0.1~0.3歳低下しました。わずかな低下ではありますが、平均年齢が低下したのは1977年に調査を開始してから初めてのことです。ある意味、歴史的な転換点とも言えるでしょう。

子供の数に応じて、教員の数が変動するのは当然のことです。しかし、教員の数の変動を新卒採用の数で調節してきたため、30歳から40歳代が少なくなりました。ここにきて、大量退職をした教員の穴を埋めるため新卒採用を増やしたことにより、中堅教員に比べて若手教員の数が多くなり、年齢構成はいびつになっています。今、教育現場では、少数の中堅教員が多数の若手教員の支援、指導をしており、中堅教員の負荷は小さくありません。

また、ベテラン教員の大量退職は、学校という組織の中で培われてきた暗黙のノウハウを次の世代へ継承することを難しくしています。教育では、指導要領のように明文化されたノウハウも重要ですが、生徒という人間を相手にする仕事である以上、多様なケースに適切に対処するための明文化されていない暗黙の知識やノウハウ、いわゆる暗黙知が重要です。その暗黙知の継承が覚束なくなるというのは、組織としては危機感を持つべき事態です。

難しくなる暗黙知の継承

8月4日付の日本経済新聞には、以下のような現場の声が紹介されています。

奈良県の公立中の男性教諭(46)は「若い教員を学校全体で育てるのが難しくなっている」と話す。約20年前に1校に1人程度だった新卒採用の教員が半数以上を占める学校もあるという。
学年主任を30代で担ったり、採用数年で運動会の責任者を任されたりして力をつける教員もいる。一方で、若手だけで問題を解決しようとし、先輩に経験を聞くことができずに失敗したりする教員も多い。
東京都の公立小に勤める30代の女性教諭は3年前から、ほかの教諭を指導していることに「十分な経験がないまま、今の立場になってしまった」と不安を隠せない。奈良県の男性教諭は「若い教員の方が新しいノウハウを持っていることもあり、お互いに知識や経験を伝えられるようにしたい」と話した。(日本経済新聞 8月4日)

同様の事態は、民間企業でも起きています。たとえば、バブル崩壊後の90年代、多くの企業が新卒採用を絞りました。そうした企業では、やはり40歳前後の世代が他の世代に比べて少なくなっています。暗黙知を若い世代に伝える重要な役割を担っているこの世代の厚みが薄いことは、企業の価値創造力の維持の面からも放置できない問題です。

暗黙知を形式知に変え、世代を超えて誰にでも理解できる表現で知識やノウハウを記述することは重要です。しかし、そもそも形式知にすることが困難であったからこそ暗黙知であったことも事実です。

優秀なベテラン社員が様々な経験によって培ってきた専門知識やノウハウである「ディープ・スマート」は、文書化したり記録したりすることは非常に難しい。一見、手間もコストもかかるように見えるが、「実践による学習」が何にもまして有効なのだ。(ハーバード・ビジネススクール ドロシー・レオナルド/タフツ大学 ウォルター・スワップ)

と述べています。

そうであれば、定年を延長したり、あるいは、退職者を再雇用したりして、若手の「実践による学習」をベテランが支援する体制を組織的に整備することも、ひとつの有力な選択肢となります。今後、学校でも企業でも、こうした動きが顕在化すると思われます。