サービス消費に底堅さ、65歳以上の消費増

物価の動きを考慮した2023年の賃金は2年連続、消費支出は3年ぶりに前年を下回った。食品の消費は鈍ったが、旅行などサービスの落ち込みは限られる。現役世代に比べ65歳以上の高齢者の消費は底堅い。
(中略)
23年の名目の消費支出は65歳以上が前年に比べ4.7%増えた。50〜54歳が2.4%減、55〜59歳が4.2%減となったのとは対照的だ。働くシニアが増えている上に、現役世代に比べると多くの金融資産を持つ。物価高の影響で支出が増えやすい面に加え、株高の恩恵を受けた一部の高齢者が消費意欲を保った可能性がある。
(日本経済新聞 2月7日)

年金の上昇率は物価上昇率よりも低くなるよう年金制度が作られているため、インフレ時には年金生活者の実質所得は減少する。勤労者の実質賃金も物価ほどに賃金が上昇していないため減少を続けているが、年金生活者はさらに厳しい。加えて、年金で暮らす高齢者は、消費支出に占める食費の割合、いわゆるエンゲル係数が高い。今、日本で最も物価上昇率の高い品目のひとつは食料品だ。高い食品を買っていた人は、安い食品に切り替えることによって、節約することができるが、元々、最低価格に近い食品を買っていた人は、より安い代替品がなく、値上げされた分、消費支出が増えることになる。

したがって、消費支出の世代間の差異は、次のように説明することもできる。50代は、被服費などの食費以外の費目の支出が多く、そこを削減することができた。食費も高級品から低価格品に切り替えることが可能だった。しかし、65歳以上は、エンゲル係数が高くて食費以外に削減する支出がなく、食品も低価格品を買っていたために、さらなる節約ができず、食料品の物価上昇に伴って消費支出が増加した。

確かに、株高の恩恵を受けた高齢者もいるが、それは全体のほんの一部だ。高齢者のほとんどは年金に依存して暮らしている。高齢者の消費支出が増加していることは、必ずしも、高齢者が勤労者に比べて豊かな生活をしていることを意味しない。そこに留意しないと、世論を誤った方向に誘導することになる。