引退までの道は長くなるばかり、働く人々の怒りが世界に渦巻く

われわれの時代に最もゆっくりと忍び寄っている金融危機は、年金だ。財政が悪化し、先の世代に約束された年金が人口高齢化という現実の壁にぶつかっている。先進国の公的年金は既に政府支出の中で最大の項目だが、さらに拡大し他の優先項目に割く資金がほとんどなくなることが予想される。経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、1980年には年金は国内総生産(GDP)の約5.5%相当だったが、2040年には10%を超える可能性がある。ほぼ全てのエコノミストが、退職年齢を遅らせ貯蓄を増やす必要性を説くが、年金改革は難しい。OECD加盟国のほぼ半数で、退職年齢引き上げの法制化は進んでいない。一部の国は政治的、社会的反動の激化を恐れて改革案を後退させている。
(Bloomberg 2月14日)

少子高齢化が先進国共通の社会問題となる中、各国の公的年金の持続可能性が危機的な状況に陥っている。寿命が延びているのだから、年金支給年齢を引き上げることによって年金財政の赤字を抑制しようとするのは、合理的な判断ではある。しかし、多くの国の高齢者は、個人的に不利益になる制度改革に賛成しない。退職年齢や年金支給年齢の引き上げは、ほとんどの国で国民の激しい反発を招いてきた。フランスにおける年金改革反対の大規模なストライキは日本でも報道されたが、OECD加盟国のような民主主義国家だけでなく、ロシアや中国でも国民の反対は根強い。

一方、日本では、それほど過激な反対運動は起きていない。むしろ、多くの日本人は高齢になっても働き続けることに積極的だ。勤勉を美徳とする道徳観や社会とのつながりを重視する社会性が影響しているのかもしれないが、理由はともかく、日本の年金制度にとっては救いとなる。ただ、日本でも、60歳から年金支給年齢までの間の賃金が50代に比べて大きく減少している現実を放置しておくと、さらなる年金支給年齢の引き上げに対する反発は大きくなるだろう。高齢者の就労意欲に応え、十分な付加価値を生み出すことのできる雇用の拡大が望まれる。