年金3年ぶり増額でも実質目減り、支給抑制適用で負担増

厚生労働省は20日、2023年度の公的年金額を3年ぶりに引き上げると発表した。年金財政の安定のため支給額を抑える「マクロ経済スライド」を3年ぶりに発動し、増額幅は22年の物価の伸び(2.5%)より小さくなる。過去の抑制の積み残し分も含めて大幅な調整となり、物価高局面で負担感が大きくなる。改定率は23年度中に68歳以上になるケースで前年度比1.9%増、67歳以下で2.2%増になる。4、5月分をまとめて支給する6月の受け取り分から適用する。
(日本経済新聞 1月20日)

公的年金は3年ぶりの増額になるが、物価上昇率には及ばず、実質的にはマイナスとなる。現役世代の給与も22年度は実質マイナスが続いているが、春闘では5%以上の賃上げが予測されており、春闘に参加する大企業では、23年度は実質プラスに転じることが期待されている。この実質賃金の増加が生産性の向上を伴っていない場合、さらなる物価上昇を引き起こし、米国のように、賃金上昇に起因するインフレ・スパイラルへと移行することになる。そうなると、年金生活者や大幅賃上げができない企業の従業員にとって、状況はますます厳しい。

マクロ経済スライドは、そもそも物価や賃金の上昇率より年金給付を抑制することを目的とした制度であるため、この制度の下で、年金が実質マイナスになるのは当然ではある。ただ、足元の消費者物価の上昇率が4%を超える中で、年金が2%程度しか上がらないのでは、年金受給者の消費意欲の減退は免れない。高齢化が進み、国民経済における年金受給者の消費の占める割合が増加している今、高齢者の消費の冷え込みは経済成長を抑制する。23年度は、物価高と不況が同居するスタグフレーションが現実味を帯びてきた。この景気後退を避けるには、高齢者が現役であり続け、物価上昇に負けない収入を確保することが重要だ。