長生きが変える住宅政策、新築志向薄れストック重視

生活に欠かせないモノやサービスの国内市場規模を、人口推計を前提とせずに推し量るのは無意味だ。日本のように特異な人口動態の国はなおさらである。たとえば住宅。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、世帯数のピークは総人口に遅れること約20年、来年にやってくる。単身世帯の割合は2020年の35%から40年には39%に高まる。大幅に増えるのが独り暮らしの高齢者だ。13%から17%になる。6世帯に1世帯の割合である。かたや夫婦と子供で構成する世帯の割合は26%から23%に下がる。静かに、確実に進行するこれらの変化を抜きにして、これからの住まいのあり方は論じられまい。人口や世帯の動向とともに住宅市場の鍵を握るのは地域性だ。都市圏と地方都市、また過疎の町村を一緒くたにはできない。ただし全国に共通する住宅市場の撹乱要因がある。空き家だ。
(日本経済新聞 9月25日)

少子高齢化が進み、単身世帯が増え、住宅需要はファミリー向けから単身あるいは小家族向けにシフトしている。過去に建設された住宅がストックとして大量に残っているものの、ファミリー向けが多く、空き家となっている物件は少なくない。空き家の活用は社会的な喫緊の課題だ。

現在、子育てが終わった高齢者が所有する一戸建てをリフォームして若い世代に販売し、高齢者世代はその売却金で生活に便利な地域に立地する集合住宅やシニア向け住宅を購入するというサイクルは回り始めている。ただ、子どもの多い若い世代は減少しており、需要はそれほど拡大していない。最も需要が拡大しているのは、独り暮らしの高齢者が快適に暮らせる住宅だ。今後は、ファミリー向け住宅をリフォームして高齢者向けのシェアハウスにしたり、空き家が多い住宅地を再開発して高齢者施設を建設したりするなど、高齢者の住宅需要に直接応えることが必要になる。国や自治体にはこうした事業を支援する施策を期待したい。