シニアの就労にブレーキ コロナ感染懸念や希望業務減で

高齢者の労働参加に急ブレーキがかかっている。就業に関する政府統計の分析からは、新型コロナウイルス禍で高齢層の就労意欲が低下し、一部が就業をやめている実態が浮かぶ。背景にはコロナ感染への不安や、希望する仕事が減ったことなどがありそうだ。意欲ある高齢者に働き続けてもらい、労働力人口を下支えするには就労環境の改善が急がれる。
総務省の労働力調査によると、女性や高齢者の働き手が増え、労働力人口はこの10年で5%近く増えた。足元では横ばい傾向になりつつある。2020年春のコロナ感染拡大初期は、女性を中心に職を離れる人が増えた。21年春以降は男性の離職が増えている。
(日本経済新聞 5月27日)

新型コロナウイルスの感染拡大によって離職した高齢者が、なかなか労働市場に戻らず、非労働化してしまう現象は、米国や他の先進国でも見られる。先進国では、経済再開に伴い求人は増加しているが、求職者の数はそれほど回復していない。その結果、日本以外の国では、賃金が上昇し、インフレ高進の原因のひとつにもなっている。日本でもパートなどの非正規雇用の賃金は上昇してきた。

このように高齢者の非労働化は先進国共通の現象ではあるが、その要因には日本固有のものもある。欧米に比べて、日本では、まだ、個人経営の自営業者が多い。そして、パパママ・ストアと呼ばれる個人商店や飲食店の経営者の多くは高齢者だ。こうした事業者がコロナ禍で廃業した場合、経営していた高齢者は職を失うが、直ちに他の職に就くとは限らない。長期的な労働力不足を緩和するには、こうした元自営業者が転職に魅力を感じ、他の職場への就労が円滑にできるよう支援する必要がある。