インフレ、高齢者ほど負担 「貯蓄から投資」遅れも影

インフレ率の世代差が広がっている。消費者物価の10年間の上昇率を世帯主の年齢別にみると、70歳以上は7.3%と29歳以下の1.1%を6ポイントあまり上回る。現役世代が保育の無償化などの恩恵を受けるのに対し、高齢者は物価上昇の重みを負いやすい。長寿命化やインフレのリスクを考慮すれば、資産形成の軸足を貯蓄から投資に移すことが一段と重要になる。
(日本経済新聞 5月3日)

同じ日本に住んでいるのに世代によって消費者物価の上昇率が異なることはあまり知られていない。高齢層と若年層では消費の内訳が違うことがその大きな要因だが、政府の施策がこの差を助長している側面もある。

この記事も指摘しているように、近年、消費者物価を押し下げる大きな要因だった幼児教育・保育無償化のような子育て世帯支援策や携帯電話料金の引き下げは、高齢層への恩恵が小さい。景気対策のGoToキャンペーンも外出の多い若年層の方がより利用する。一方、高齢世帯では光熱費や食費の比重が高いが、これらは、ウクライナ戦争や円安の影響もあり、価格上昇が続き、天井はまだ見えない。高齢層にとっては、日銀が目標とする2%の消費者物価上昇率はとうに超えている。

物価高への対応策は、一般的には、賃金引き上げて実質賃金を維持することだ。実際、今年の春闘では、製造業を中心に賃上げが相次いでいる。しかし、高齢層の賃金はそれほど上昇していない。高齢層をリストラして若年層の賃上げ原資を確保しようとする企業もある。年金に至っては減額された。

では、高齢者はどうするべきか。この記事では、高齢者のインフレ対策として「貯蓄から投資」を是としている。確かに一つの選択肢ではあるが、今年になって、インフレと金利上昇で投資のパフォーマンスはマイナスだ。加えて、岸田政権は金融投資への課税強化を表明しており、日本における投資でリスクに見合ったリターンが得られるかどうか定かではない。

結局、高齢層が取り得るインフレ対策は、できるだけ長く働くことに帰結しそうだ。年金以外の収入源を確保しておくことは、家計の安全保障にとって重要になる。一方、国は、諸外国と同様に、金融・財政政策をデフレ対策からインフレ対策に切り替え、高金利、緊縮財政に転換すべきだ。