年金改革で就労後押し 75歳で受給開始、22年春可能に

群馬県内のメーカーで事務として働く男性(63)は「何歳まで生きるかわからない。働けるかぎりは稼いでおきたい」と話す。会社は再雇用で70歳まで働けるようになったため、年金をもらい始める年齢を後ろにずらして老後の年金の受取額を増やす考えだという。「これからの時代、年金だけでは心もとない」
(中略)
公的年金の受給開始年齢は原則65歳で、本人が希望すれば60~70歳の間で繰り上げたり、繰り下げたりできる。2022年4月からは受給開始年齢を繰り下げられる上限を70歳から75歳に引き上げる。
(日本経済新聞 7月6日)

現在の制度の下でも、老後も就労を続けている人の中には、年金の受給開始年齢を繰り下げる人もいる。ただ、その割合は小さい。何歳まで長生きできるかどうか分からないなら、早くもらっておいた方が良いと思う人が多いのが、その理由とされている。

受給開始年齢の繰り下げで毎月の受取額は増額されるが、繰り下げで受け取らなかった期間の年金額を回収するには、11年以上かかる。75歳まで繰り下げた人は、少なくとも86歳まで生きていないと元を取れない計算だ。平均寿命の長い女性ならば、生きている確率の方が高そうな年齢だが、男性の場合は生きていないかもしれない。

また、受給開始年齢を75歳まで繰り下げると、年金額は84%増額されるものの、年金収入が増加すると税や社会保険料が累進で高くなるため、手取り額はそれほど増えない。手取り額で元を取るには11年よりも長生きする必要がある。ただ、年金以外の収入が一定程度以上ある人は、その収入がある限り年金の受給開始を繰り下げ、その収入が途絶えてから年金を受給した方が、年収が平準化されて、トータルの税と社会保険料が少なくなる可能性もある。

結局、受給開始年齢の繰り下げの損得は人によって異なるということだが、よく分からないのであれば、元気なうちに年金をもらいたいと思う人が多くなる。政府が繰り下げを奨励したいのであれば、繰り下げによって、ほとんどの人が得になるような制度に改正する必要がある。