70歳継続雇用、導入の動き相次ぐもコロナ禍がネックに

従業員に70歳まで働く機会を確保するよう努力義務を課した改正高年齢者雇用安定法が4月に施行されたことなどを受け、企業がシニア人材の雇用制度の見直しを進めている。経験豊富な人材を活用できるメリットは大きい。一方、新型コロナウイルス禍に苦しむ企業には人件費増で二の足を踏む動きがあるほか、組織の新陳代謝でマイナスとの懸念も根強い。今後制度をつくる企業も多く、課題は残されている。
(産経新聞 5月19日)

新型コロナウイルス感染症の終息が遅れる中、雇用の維持が厳しくなる業界と、逆に、業績回復に伴い雇用を拡大する企業に、二極化が進んでいる。いわゆるK字回復だ。改正高年齢者雇用安定法への対応にもその差がでてきた。

輸出が回復し過去最高益となった製造業では、コロナ禍前からの人手不足が今なお続いている。このような好況にあっては、65歳を超えても働いてもらうことは会社にとってもプラスだ。一方、需要が激減したままの小売、飲食、観光などサービス業は、若年層の雇用を守るのも難しい状況に陥っている。その中で、高齢者の雇用を継続するのは厳しい。厚労省の雇用調整助成金で何とか雇用を維持している状態では、65歳を超えた雇用の制度化には消極的にならざるをえない。

ただ、ワクチン接種が進み、新型コロナウイルスの新規感染者が減少してくれば、サービス業の需要も回復する。個人消費は、今まで抑制されていた分、より急激に増加する可能性もある。そうなれば、サービス業の雇用は、高齢者を含め、急回復するだろう。したがって、長期的には、コロナ禍はシニア人材の雇用制度見直しの抑制要因にはならない。

むしろ、長期的に課題になるのは、組織の新陳代謝の維持だ。当面は、65歳までの雇用制度を70歳まで延長したとしても、年々高齢化が進むとすれば、いずれ新陳代謝を効果的に行うための制度改革が求められる。製造業も非製造業も、年齢に依存せず、成果と報酬のバランスを合理的に取る制度の実現に向けて、今から積極的に取り組むことが重要だ。