定年後雇用、年収減に泣く「同一労働」訴え棄却

「システムエンジニアとしての仕事は同じなのに、定年後は年収が2割以上も減った」。愛知県在住の男性(62)は2019年10月、定年前との賃金の差額などを求め、正社員として働いていた派遣会社を訴えた。再雇用後は、正社員から「限定社員」の身分に。月給制から時給制に変わり、賞与もなくなった。13日に名古屋地裁が出した判決は、訴えを全面的に退けた。焦点になったのは、正社員と、非正規社員との不合理な待遇格差を禁じる労働契約法旧20条(現パートタイム・有期雇用労働法8条)だ。判決では、再雇用後の「限定社員」は雇用期間の定めがなく、有期雇用の非正規には当たらないと判断。20条に違反しないと位置づけた。さらに、退職金を受け取っていることなどを理由に、住宅手当といった各種手当の不支給も「不当ではない」とした。(東京新聞1月25日)

定年後の再雇用による賃金の引き下げについての訴訟が相次いでいるが、基本給が定年前の6割というのが相場になりつつある。退職金の支給を理由に、賃金の引き下げを容認するのも判例として定着してきた。年功序列型賃金を前提として日本で広く取り入れられてきた再雇用制度の現状を概ね追認する判決が続いている。加えて、今回は、再雇用に雇用期間の定めがない場合は、有期雇用の非正規に当たらず、現パートタイム・有期雇用労働法8条に違反しないという判断も示された。これは無期雇用の非正規社員は正社員との間に不合理な待遇格差があっても許されるということであり、法律の解釈としては正しくても、社会的に正義と言えるのか疑問を抱く人も多いだろう。そもそも、正社員と有期雇用の非正規の間に無期雇用の非正規である「限定社員」のような身分を作る余地を残した現在の法体系に問題があったともいえる。行政府や立法府は今後の法改正も視野に入れて、この問題を検討すべきだ。