働くシニアの年金減額、22年4月から縮小 就労後押し

高齢者が働くことを後押しする環境づくりが進む。厚生労働省は60~64歳で満額の年金を受け取る人を増やす制度改正を2022年4月に実施する方針だ。4日には70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする法改正案も閣議決定された。人口減で人手不足が広がる中、意欲のある高齢者の就労を促す。
働いて収入があるシニアには「在職老齢年金」という年金を我慢してもらう仕組みがある。現在は賃金と年金の合計額が月28万円を超えると年金が減る。22年4月からはこの基準を月47万円に上げる。
(日本経済新聞 2月5日)

在職老齢年金制度の改正案が、対象となる人の収入を月28万円から月47万円に引き上げることで決着した。月28万円を超え、かつ、47万円以下の人は対象外となり、年金を満額受け取ることができるようになる。厚生労働省が2019年10月9日の社会保障審議会に提出した案では、月62万円までは対象外となっていたが、金持ち優遇との批判を浴びて47万円となった。

在職老齢年金の現行制度では、60~64歳までの人は月28万円を超えた場合、65歳以上の人は月47万円を超えた場合に年金額が減額される。今回の改正は、65歳未満の人の基準額を65歳以上の人と同額に合わせたに過ぎない。そもそも、年金支給開始年齢は段階的に65歳に引き上げられているため、早晩65歳未満の年金受給者はいなくなり、今回の改正がなくても、基準額は自然に月47万円に揃う。今回の改正が意味を持つのは極めて短い期間に過ぎず、その効果は限定的だ。

今回の改正の目的である「高齢者が働くことを後押しする環境づくり」を達成するには、65歳以上を含めて基準額を月47万円よりも増額するか、あるいは、在職老齢年金制度そのものを廃止する必要がある。

在職老齢年金制度を廃止して高額所得者の年金が減額されなくなったとしても、それによって収入が増える高額所得者は、累進課税制度によって、より高率の所得税を課せられる。高額所得者から低額所得者への所得の再分配は、所得税によってなされるべきであり、年金の支給額によって行われるべきではない。在職老齢年金制度の廃止は、金持ち優遇ではなく、むしろ、フェアな所得再分配制度への移行と捉えるべきだ。