年金、前倒し受け取り増加も 厚労省が減額率見直し案

厚生労働省は18日、公的年金の受給開始年齢をずらすことに伴う年金額の増減率の見直し案を示した。60歳からもらう場合、今は65歳より30%減る仕組みだが、24%減にする。一方、65歳より受け取りを遅らせる場合の増額率は据え置くため、早く年金をもらう人が増える可能性がある。現在60~70歳の間で選べる受給開始時期を60~75歳に広げ、最大84%増やす案も示した。
(日本経済新聞 10月18日)

受給開始年齢による年金額の増額率は、何歳で年金をもらい始めても生涯の年金額を一定にするというルールで決められている。たとえば、60歳からもらう場合は、60~65歳までに受け取る額が、65歳から死亡するまでの減額の合計と等しい。

60~65歳の受給額は、
「基準年金額×(1-減額率)×5年」
減額の合計は、
「基準年金額×減額率×65歳からの余命」
となるため、
「基準年金額×(1-減額率)×5年 = 基準年金額×減額率×65歳からの余命」
となり、
「減額率 = 5/(65歳からの余命+5)」
となる。つまり、分母の「65歳からの余命」が延びれば減額率を低くしなければならない。減額率が低くなれば、生涯の年金額が一定だとしても早くもらいたい人は増える。

現在でも受給開始を遅らせる人よりも早める人の方が圧倒的に多い。生きている内に受け取って使いたいという気持ちが行動を起こさせるという行動経済学上の理由もあるが、金額が同じなら将来得る価値よりも現在の価値の方が高いという経営学上の理由もある。基準となる年金額が将来減額される可能性があるとしたら、なおさら現在価値の方が高い。減額率の低下が受給開始年齢を早めて高齢者の就労意欲の低下を招くことを心配するなら、まず、年金の将来価値が目減りしないような制度を確立することを優先すべきだ。