社保改革、高齢者の雇用拡充を先行

政府は、今後3年で実行する社会保障制度改革の具体策や目標時期を盛り込んだ「行程表」を来年夏の参院選前に策定する方針を固めた。第1弾として高齢者の雇用拡充策を年内にまとめて先行実施し、その後、年金・医療制度改革に着手する。安倍首相は2021年9月までの任期の中で、中長期的な社会保障改革に道筋をつける考えだ。
(中略)
 首相は1年目の課題として、高齢者が働き続ける環境の整備を据えた。10月上旬にも政府の未来投資会議で具体策の検討を指示する。成長戦略を議論する同会議に諮るのは、働く高齢者を増やして医療保険など財政負担の軽減につなげるだけでなく、「労働力確保による経済成長に期待している」(政府関係者)ためだ。
(読売新聞 9月27日)

高齢者の雇用が拡大すれば、年金や医療の制度への財政負担が軽減されることは論を待たない。したがって、歳出抑制に対して抵抗の大きい年金・医療制度改革に踏み込む前に、できるだけ働く高齢者を増やして、歳出抑制の必要額を抑制しようとするのは、政治家としては、合理的な判断だ。

ただ、働く高齢者を増やす施策が、高齢者の雇用を増やした企業への補助金だとすると、その財源が問題となる。高齢者の雇用拡充が社会保障制度改革のためであるなら、財源は社会保障費から捻出するのが筋だ。仮にそうだとすると、高齢者の雇用拡充のための費用と雇用が拡大して軽減される年金・医療制度の財政負担とのバランスが問われることになる。高齢者の雇用拡充のための費用以上に年金・医療制度の財政負担が減少しなければ、社会保障制度の財政は全体としてマイナスとなり悪化する。

今回、高齢者の雇用拡充策は、成長戦略を議論する未来投資会議で検討するよう首相から指示されることになったが、これは、財源問題への一つの解でもある。高齢者の雇用拡充は経済成長のためでもあるとするならば、経済成長促進のための予算を使う余地が出てくる。これによって、雇用拡充策の立案の自由度は拡大することになるだろう。

もっとも、それが国民経済全体にとって良いことかどうかは分からない。そもそも、国が目指すべきは、補助金で誘導しなくても市場原理で高齢者の雇用が自律的に拡大する労働市場を確立することだ。未来投資会議には、投資先の議論だけでなく、投資効率も考慮した国家百年の計を検討することを期待したい。