東ソー、シニアの力でバイオ機器

化学大手の東ソーが注力するバイオサイエンス事業。医療現場などでの検査や診断に使う試薬とともに、事業の柱となっているのが検査・診断機器の製造だ。生産を担う東ソー・ハイテック(山口県周南市)では、いったん定年退職し再雇用されたシニア従業員が組み立て作業を引っ張る。化学メーカーらしからぬ製品事業を支える異色の生産現場をのぞいてみた。
 東ソーの中核工場がある南陽事業所(山口県周南市)。周南大橋を北に渡った対岸に東ソー・ハイテックの福川工場がある。足を踏み入れると、従業員が作業台に向かって部品の組み付けや電子部品のはんだ付け、機器の作動確認をしている。
 一見すると普通の組み立て工場だが、働く人の姿を見ると、白髪の交じった男性が多いことが分かる。実は福川工場で働く約180人のうち、約80人が南陽事業所を定年退職した後に再雇用された契約社員。平均年齢64.5歳だ。60人強の女性従業員も南陽事業所で働く社員の配偶者や友人で占められているという。
 「働く人のひととなりもわかりやすく、従業員の士気は高い」。東ソー取締役の山田正幸バイオサイエンス事業部長は“身内”ともいえる人材を活用する狙いをこう語る。就業時間は朝9時から午後3時半まで。作業が大幅に遅れていない限り残業することは基本的にない。清潔で危険の少ない現場で無理なく働けることに満足感を感じている従業員は多く、定着率も高いようだ。
(日本経済新聞 電子版 3月14日)

体力を必要とする生産現場でシニアが働き続けることは難しいかもしれないが、生産現場のすべてで体力がいるわけではない。医療用の検査・診断機器の組み立てや動作確認であれば、体力よりも経験やノウハウがものをいう。さらに、東ソー・ハイテックのように、午前9時から午後3時までと勤務時間を短くすれば、シニアの活躍の場は増える。

また、東ソー・ハイテックの生産部門には、東ソーのバイオサイエンス部門から設計・開発の担当者が出向してきている。これらの出向者は、部品単位に詳細な組立手順書を作成するとともに、製造過程での不具合に即座に対応している。こうした、設計・開発部門のバックアップもシニアの生産現場での活躍を支えるためには重要だ。

職場における人事制度と業務プロセスの改善、それがシニア活用の可能性を広げることをこの事例は教えてくれている。