世界各地で定年延長めぐり葛藤

世界各国は、定年延長をめぐって政府と国民の間で葛藤が起こっている。(中略)
日本政府は「70歳定年」を推進している。(中略)
ドイツも状況は似ている。現在65歳の定年を2029年までに67歳に延長する。(中略)
米国や英国は定年がない。米議会は、年齢による雇用差別を防ぐために、1986年に65歳と規定された法的義務の定年をなくした。英国も同じ理由で65歳定年を2011年になくした。ただし、両国いずれも財政の健全性に向けて年金受給の時期は遅らせている。
ロシアのプーチン大統領は昨年6月に定年年齢を2028年までに男性は現行60歳から65歳に、女性は現行55歳から63歳に引き上げるとしたが、激しい逆風を迎えた。全国でデモが起こり、80%を超える支持率は60%台に急落した。
(東亜日報 2月23日)

日本に限らず、先進国の多くは高齢化に悩んでおり、各国政府は定年の延長や廃止を進めようとしている。しかし、それに対する国民の反応は様々だ。

日本やドイツでは、定年延長は労働者にも受け入れられている。特に日本では、長く働くことを望む高齢者が多い。米国や英国でも、高齢者になっても働くことを希望する人は少なくない。ただ、何歳まで働くかは個人が決めることであって、定年制度のように企業が決めることではないという考え方が浸透している。そのため、逆に、早期にリタイヤすることを目標に若いときから蓄財に励む人もいる。

一方、ロシアでは、定年延長に反対する国民の方が多い。強権を持つプーチン大統領でも、激しい国民の反対の前に、法案の修正を余儀なくされた。イタリアやフランスも同様で、定年延長は国民の支持を得にくい。その結果、イタリアのポピュリズム政権は、逆に、定年を67歳から62歳に引き下げて、世論に迎合する政策を取った。これらの国々では、多くの労働者は早く引退して年金で暮らすことを希望しており、そうした方向への政治的圧力が大きい。

こうしてみると、それほど大きな社会的軋轢がなく、高齢者の雇用が拡大している日本は、少子高齢化社会にうまく対応しているようにも見える。ただ、そもそも少子高齢化にならなければ、早く引退して年金で暮らす社会も実現可能ではある。実際、フランスの出生率は1.96と人口をほぼ維持できる水準であり、定年を延長しなくてもしばらくは持つ。高齢者の雇用拡大と共に、少子化の抑制をどう実現するか、それが今日の日本が直面する課題だ。