高齢者の配当・利子、2020年代後半に保険料反映へ 現役世代の負担軽く

政府は株式の配当など金融所得を高齢者の医療費の保険料や窓口負担に反映する方針を固めた。損益通算のための確定申告をしなければ、保険料負担などが軽くなる不公正を是正する。2020年代後半の開始を目指す。金融資産を多く持つ高齢者の医療給付費を抑え、現役世代の負担軽減につなげる。月内にまとめる経済対策に「具体的な法制上の措置を2025年度中に講じる」と明記する。26年の通常国会に関連法の改正案を提出する方針だ。
(中略)
財務省の試算によると、75歳以上で配当収入が同じ年500万円でも申告をしなければ医療保険料は年1万5000円ほどで済む。確定申告をすると、およそ35倍の約52万円に跳ね上がる。医療費の窓口負担も原則の1割から3割に上昇する。
(日本経済新聞 11月18日)

医療費の増加が続く中、負担能力の高い高齢者により多くの負担を求めるのは、やむを得ない面もある。ただ、株式の配当などの金融所得を確定申告したときと同じにするのは、所得税の減収につながる可能性があることに留意しなければならない。現行制度では、「損益通算のための確定申告をしなければ、保険料負担などが軽くなる」のは事実だが、一方で、損益通算などの確定申告をせず、分離課税をしていれば、所得税と住民税を合わせて一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の税を払っている。しかし、所得の低い人は総合課税で配当控除を使うと、この税率よりも低くなる。それでも確定申告をしなかったのは、「保険料負担などが軽くなる」というメリットがあったからだ。確定申告をしてもしなくても保険料負担が同じなら、このような人は、総合課税で確定申告をすることを選択するだろう。

たとえば、年金収入が年110万円で配当収入が年500万円の場合、年金は公的年金等控除額の110万円以下なので非課税、配当は基礎控除48万円を引くと残り452万円で所得税は452万円×20%-42.75万円=47.65万円となる。一方、配当控除率は10%なので控除額は500万円×10%=50万円だ。47.65<50なので、全額控除されて所得税はゼロとなる。住民税は一律10%だが、配当控除を申告すれば、2.8%控除され、500万円×(10-2.8)%=36万円だ。この結果、所得税と住民税の合計は、36万円となる。これは、分離課税の税額500万円×20.315%= 101.575万円に比べて、101.575-36= 65.575万円安い税額だ。医療保険料が1.5万円から53万円に増えても、それ以上に税収は減る。これが、財政再建につながる政策なのかどうか、よく考えてみる必要がある。