パナソニックHD、国内社員の半数が50代以上、人員削減でメス
パナソニックホールディングス(HD)が5月に国内で5000人規模の人員を削減する方針を発表してから約半年となり、実行に動き始めた。固定費を圧縮して収益力を回復する狙いだが、数年後に控える「定年ラッシュ」への対策でもある。国内社員の2人に1人が50代以上という偏った年齢構成の解消を急ぐ。
(中略)
年齢構成の偏りはパナソニックHDが実施してきたM&A(合併・買収)によるものだ。松下電工や三洋電機などの買収後、人事や経理など間接部門の統合を先送りにし、調達や物流の共通化にも本腰を入れられなかった。IT(情報技術)バブル崩壊やリーマン・ショックで採用を絞ったこともあり、年齢構成がいびつになった。
(日本経済新聞 10月27日)
パナソニックが人員削減を伴う合理化に踏み切るのが遅れたのは、創業者の松下幸之助氏のDNAを引き継いできたからかもしれない。松下氏は、昭和恐慌で売上が半減したとき、従業員の半減を進言する経営幹部に対して、
「松下がきょう終わるんであれば、きみらの言うてくれるとおり従業員を解雇してもええ。けど、わしは将来、松下電器をさらに大きくしようと思うとる。だから、一人といえども解雇したらあかん。会社の都合で人を採用したり、解雇したりでは、働く者も不安を覚えるやろ。大をなそうとする松下としては、それは耐えられんことや。みんなの力で立て直すんや。」
と述べたという。その言葉どおり、松下電器は、その後、大企業へと急成長した。
経営の神様と称される松下幸之助氏の判断は正しかったということだが、従業員を削減しないという判断が正しいかどうかは、その時の企業の置かれた環境にもよる。経営者が会社を「さらに大きくしようと思う」ことのできる状況であれば、余剰人員は成長とともに余剰ではなくなる。しかし、今のパナソニックでは急成長は難しい。2025年3月期の売上高成長率はマイナスであり、過去3年間の平均は4.6%、過去10年平均は0.9%に過ぎない。成長よりもコストカットによって増益を確保しているのが現状だ。この状況下では、50代以上の従業員を削減するのは合理的な経営判断ではある。
ただ、成長なき人員削減は、事業の縮小均衡をもたらし、さらに競争力を失えば縮小して得た均衡も維持できなくなって新たな余剰人員を生む。パナソニックHDが松下幸之助氏から受け継ぐべきは、人員削減をしなかったという故事ではなく、成長への飽くなき挑戦である。
