技術一筋の会社員、退職後は通訳に
上司や同僚は外国人――。グローバル化が進む昨今、珍しくない光景だ。英語が必須となる状況を成長の機会と捉え、定年後の新たな道につなげた人がいる。日立造船(現カナデビア)と三菱自動車に計約35年間勤めた田代真一郎さん(75)。いまはフリーランスの通訳者として国内外を飛び回る。
(中略)
英語ができる人はたくさんいるが、自身の強みはエンジニア時代に培った知識。特に自動車など機械に関しては、かみ砕いて通訳できる。わかりやすさが口コミで広がり、リピーターも増えていった。エンジニアとしての経歴を見た依頼元から「英語で講義をしてくれないか」と頼まれることも。日系企業の海外拠点で働く現地社員などに、日本の物作りや企業風土について伝える講義は、新たな仕事の柱になっている。
(日本経済新聞 9月14日)
翻訳業界は専門分野ごとに細かく分かれている。単に、語学に堪能な人を集めても品質の高い翻訳はできない。それぞれの分野の専門用語や背景の知識がないと正確な言葉の選択は困難だ。たとえば、同じ英単語でも専門分野によって対応する日本語が異なることはよくある。通訳も同じだ。観光ガイドと機械分野の技術通訳では必要とされる知識が違う。
ひとつの業務に長く従事していると、自ずとその分野の知識やノウハウが蓄積される。職場の中では、周りの人も同様の知識を持っているので、あまり意識することはないが、社会全体から見ると特異な知識や能力であることもある。日常的に英語で機械分野の仕事を行っている環境では、英語で機械の話をするのは特別なことではないが、これから海外進出しようとしている企業にとっては、社内にない知識と能力を持っている人に見えるだろう。第二の人生を考えるにあたっては、まず、自分の持っている知識や能力を棚卸して客観的に見つめ直してみるのもよい。
