遺族年金どう変わる? 男女差が縮小、給付上乗せも

今年、遺族年金に関する制度改正が話題になった。故人の配偶者が男性か女性かで差が大きい点を是正する内容だが、給付が突然止まるのではといった誤解も多い。施行は2028年4月と少し先だが、制度を正しく理解しておきたい。
(中略)
子どもがいるケースでは、男女とも遺族基礎年金とともに遺族厚生年金が受け取れるようになる。ただし遺族基礎年金の受給が終わった後は、男女ともに5年間の有期給付となる。女性には65歳まで中高齢寡婦加算があるが、25年かけて縮小・廃止されるスケジュールとなっている。
子どもがいないケースでは、男性は60歳未満で妻と死別した場合5年の有期給付が受けられるようになる。女性は有期給付の対象が、現行の30歳未満から40歳未満へと上がり、改正法の施行から20年かけて60歳未満に引き上げられていく。なお、28年度末までに40歳以上になる女性(1989年4月1日以前生まれ)は現行制度が適用されるので、改正の影響はない。
(日本経済新聞 8月8日)

年金制度改革では、厚生年金の基礎年金への流用が話題になった。それに比べると遺族年金の制度改正は、それほど注目を集めたわけではない。しかし、若い女性にとっては、老後を見据えて、結婚後も働き続けるか専業主婦になるかの選択に影響を与える問題だ。「男女差が縮小、給付上乗せも」という見出しだけを見ると、良いことばかりという印象も受けるが、当然のことながら、この改正で不利益を被る層もある。それが、専業主婦だ。

現行制度は、妻は専業主婦であることを前提としているため、夫の退職後も夫の年金を世帯の主な収入源とすることを想定している。夫が死亡すると妻は収入源を失うため、夫の遺族年金を受けることで、生計を立てられるようにしてきた。しかし、働き続ける女性が増え、専業主婦が少数派になると、現行制度は専業主婦だけを優遇しているように受け取られる。今回の改正は、専業主婦とそうでない女性との差を縮小するという意味では公平な方向への変化だ。

ただ、専業主婦になるかどうかは、結婚や出産など、人生の早い時期に決断する。老後は遺族年金に頼れると思ってすでに仕事を辞めている女性にとっては、辞めた後に遺族年金が減額されるのは厳しい。「28年度末までに40歳以上になる女性は現行制度が適用される」という措置も取られているが、現在35歳で専業主婦の人は含まれない。再就職は可能かもしれないが、働き続けた場合に比べて給与は少ないだろう。年金制度の変更は、人々の人生にこうした影響を与えることにも留意しながら進める必要がある。