「60歳の崖」給料3割減も、仕事は同じで正社員と格差

高年齢者雇用安定法の経過措置が終わり、4月から、希望者全員の65歳までの雇用が完全義務化される。労働力が減る中でのベテラン活用はタイムリーだが、60歳以降の処遇には「仕事は同じで賃金3割減」という「崖」の存在が指摘されている。背景には賃金減を許容した司法判断がある。高年齢者雇用安定法は企業に65歳までの雇用確保を義務づけるが、厚生労働省などの官庁統計では、大企業で60歳を境に賃金が3割前後減る点で一致する。公務員は「60歳以後の俸給7割」が既に規定されており「3割減」は官民共通の基準になりつつある。一方、労働政策研究・研修機構が60歳以降の仕事内容について調査したところ「以前と全く同じ」が44%に達した。「内容は同じで責任が軽い(38%)」との合計で8割強が仕事内容に変化がなかった。
(日本経済新聞 3月17日)

たびたびマスコミで報道されている60歳の壁問題。60歳以降は仕事が同じなのに賃金が3割減になるという問題だが、問題と認識するかどうかは立場によって異なる。働く高齢者は不当だと思っても企業は当然だと考えることも多い。労使が争った長澤運輸裁判では、2018年に最高裁が再雇用の賃金体系が長期雇用を前提とする正社員と異なるのは不当ではないと判断した。公務員が「60歳以後の俸給7割」となっているのはこの判例の影響でもある。

ただ、7割という俸給の水準になったのは、大企業の給与水準に国が合わせたからだ。つまり、基準は官民共通にすべきという目標があって、その達成のために、官も民に合わせて3割減とすることになった。したがって、今後、民が変われば官も変わることになる。たとえば、近年、60歳以上の従業員の処遇を現役並みに引き上げる大企業が増えてきているが、その割合が過半数を超えてくれば、公務員の給与体系も変わる可能性が高い。