花王元工場長、自らもDX
35年にわたり着続けた作業服ではなく、ジャケットにスニーカー姿でパソコンと向き合う生活が性に合ってきた。花王・デジタルトランスフォーメーション(DX)部門に所属する松下芳さん(65)は定年退職となる5年前、畑違いの分野に飛び込む覚悟を決めた。職場は巨大な設備に囲まれた工場から東京・茅場町にある本社へ移り、仕事は業務の効率化につなげるアプリを開発する役割に変わった。現場の稼働状況を把握できるアプリなど、これまでに手掛けた〝作品〟は80を超える。
(日本経済新聞 12月2日)
工場の現場一筋で工場長まで務めた人が、ITを身に付け、自らアプリを開発することができれば、現場の効率化や品質向上に役立つITシステムを構築することができる。多くの日本企業がシステム開発をITベンダーに外注しているのはコストダウンのためだ。確かに、ITの専門家集団であるITベンダーの方がシステムの開発、運用の生産性は高い。しかし、システムに何が必要かという要件を示すのは現場だ。現場の要件を満たさないシステムは、役に立たず、結局、何度も修正を重ねてコストがかさむ一方、導入効果も上がらず、トータルのコストパフォーマンスは低くなる。
現場の業務をよく知り、システム化の要件を理解しているシニアが、ITの素養を身に付け、自ら設計に加わることで、真に現場に役立つITシステムの構築を支援するこができる。特に、今後は、AIの進化によって、システム開発のハードルは下がり、高度な専門知識がなくてもアプリ開発が可能になる。今まで蓄積してきたノウハウをアプリの仕様に移植することは、今後、シニアが果たすべき職務のひとつとなるだろう。