増える「老老相続」、相続人の半数が還暦以上に
年齢が高い人どうしで遺産が受け渡される「老老相続」が増えている。2022年時点で相続人の半数超が還暦以上だった。高齢世代に滞留する資産の成長への生かし方や、資産保有の偏りを踏まえた社会保障制度をどうつくるかは、政策課題として重要さを増している。
遺産を相続する人のうち、60歳以上の割合は52.1%だった。現役世代である50歳代は27.0%、49歳以下は20.6%だった。内閣府が2024年度の経済財政白書で政府の各種資料をもとに分析した。亡くなった人である被相続人は80歳以上が19年に全体の7割と、30年前と比べると1.8倍に増えた。想定以上の長生きに備えたり、将来の経済見通しが不透明で子や孫の生活水準低下を防いだりするため、遺産を残すケースも増えている。
(日本経済新聞 10月23日)
寿命が延びている以上、被相続人も相続人も年齢が上がっていくのは自然な流れだ。それにも関わらず、老老相続がニュースになるのは、高齢世代の資産を税や社会保障費として行政が吸い上げ、新たな歳出のための財源を確保したいという思惑があるからだ。このため、行政や政治と呼応する一部マスコミも、「高齢世代に資産が滞留して消費に回らないために経済成長が阻害されており、資産を保有する高齢者には、より高い負担を求めて、その資産を高齢者に代わって行政が使うことによって、マクロ経済は成長する。」という論調を展開することになる。
しかし、客観的な事実に基づいて考察すれば、この主張が不合理であることが分かる。高齢者が若年層より貯蓄をしており、貯蓄性向が高いことは事実だが、高齢者の貯蓄が現金でタンス預金になっているわけではない。その多くは銀行等の金融機関に預貯金として預けられている。預貯金は金融機関が投資をしたり企業に融資したりすることで、経済の活性化に役立っている。もし、高齢者が一斉に預貯金を引き出して消費に回せば、金融システムは信用不安を引き起こし、経済成長どころか大恐慌の再来になるだろう。そもそも、貯蓄を消費に回して経済が活性化するのは、マクロ経済が深刻な需要不足に陥っているデフレーションのときだ。今、日本は、デフレを脱却し、日銀は金融政策を引き締めて利子のある世界に戻っている。むしろ、銀行は預貯金の確保に奔走し始めた。今の日本では、貯蓄率の低下によって資本不足に陥ることの方が、成長の阻害要因となる。