アベノミクスの行方は?-最小の黒字額「国際収支」を読み解く-

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資料:財務省 国際収支統計

国際収支の黒字額1985年以降最少

資源の少ない日本は、石油などの燃料や原材料を輸入し、それを加工し製品をつくりあげて輸出することで稼いできましたが、その足元が揺らいできています。
2013年の国際収支の黒字額は3.3兆円と、データが比較可能な1985年以降最少となりました(財務省発表)。

 海外との取引状況を示す経常収支は、モノの輸出入の貿易収支、旅行や輸送、証券取引手数料などのサービス収支、親会社・子会社間での配当金や株式配当金・利子などの所得収支、対価を伴わない資産の提供に係る経常移転収支で構成されています。
1990年代までは、自動車や電気製品を大量に輸出して得る貿易収支の大幅な黒字というのが特徴でしたが、90年代後半から2000年代に入ると、生産拠点の海外移転が進められるようになり、それら子会社からの配当金などにあたる所得収支の黒字が拡大するようになってきました。
「2003年に861万台だった自動車の海外生産台数はこの10年で倍増。
-ホンダは米国で売る製品の9割以上を現地で生産し、トヨタ自動車でも約7割は現地生産に置き換わっている(日本経済新聞2014/2/11)-のだそうです。
大学の卒業論文のテーマが、「日米欧貿易摩擦」だった私にしてみたら、隔世の感があります。

 そして、リーマンショックで世界の景気が大幅に減速し、日本の輸出も激減。新興国市場をターゲットに舵を切りつつあったところに、2011年3月に東日本大震災が発生。
原子力発電所の稼働が停止し火力発電所向けの燃料の輸入が増加したことなどにより、この年の貿易収支は赤字に転じました。
そして、一昨年、昨年と赤字幅は拡大しており、さらに2014年1月の貿易収支の赤字額は、貿易収支として比較可能な1979年以降で最大の2兆7899億円に達したとのこと。
所得収支の黒字でも補いきれなくなってきているというのです。

赤字はどこまで?分かれる市場の反応

赤字の要因のひとつは、原発の稼働停止で火力発電向けのLNGなど燃料の輸入が大幅に増えていることとよく言われます。
しかしながらこれに関しては、「過去3年間の18.1兆円の貿易収支悪化のうち、約7.5兆円はエネルギー価格の上昇と円安が理由である」ものの「エネルギーの輸入量が増加したことが要因ではなく、価格要因である」(JPモルガン・チェース銀行 佐々木融氏 ロイター2014/1/30)という分析もあります。
過去3年間、原油の輸入量増加は認められず、天然ガスも数量としては25%しか増えていないそうで、世界的な原油価格の高騰と円安による価格の上昇がエネルギー輸入額を押し上げているというのです。「原発が10基動いても、貿易赤字の構造を変えるだけの力はない」(バークレーズ証券 森田京平氏 日本経済新聞2014/2/11)との見方もあります。
アベノミクス効果で為替レートの円安傾向が定着しています。円安が進むと当初は輸入額が膨らんで赤字が増えますが、対外的に価格競争力を持つことで輸出が回復し、赤字は縮小に転じる…というのが、定石です。
となると、今は赤字が膨らんでいる段階であり、徐々に輸出は回復し、貿易収支の赤字もこれ以上広がらないで済むのでしょうか。
市場関係者の間では、「貿易赤字は短期的にそろそろ縮小に向かうはず」「円安による輸出増加の効果も徐々に現れ始める」という見方がある一方で、「企業の海外移転が進み、輸出の戻りも遅い。所得収支を急に増やすのも難しい」として、近いうちに日本が年間で経常赤字に転落するとみる市場関係者も多いようです。