高齢化社会と介護移住の話


日本創成会議が発表した、医療・介護サービスを確保するために、高齢者の地方への移住を促すなどの提言が注目を集めています。
これまで、限界集落などと言われるように、高齢化が問題視されてきたのは、主に地方でしたが、今後高齢化が深刻になるのは都市圏です。このコラムでも以前東京の高齢化についてご紹介しましたが、創成会議の提言でも、団塊の世代をはじめ東京圏在住者が大量に高齢期を迎えるため高齢化が進む一方、地方の多くは高齢化率が徐々にスピードダウンすることで、「例えば、2000 年時点で最も高齢化が進んでいた島根県は、既に33%近い高齢化率であるが、2040 年代に40%近くに達した後は概ね横ばい」となり、「全体的には、2050 年代になると東京圏も地方圏もほぼ同じ水準となる」と指摘しています。

高齢者が増えれば医療や介護の需要も増え、2025 年までに全国平均14%増加する入院需要は、埼玉県では25%増、千葉県22%増、神奈川県23%増、東京都20%増と予測されています。東京においては、大学病院など高度医療提供機関は充実しているものの、慢性期患者の多い療養病床は既に不足気味。東京都区部に住む患者のうち、区部の医療機関に入院して居る割合は6割程度にとどまっており、埼玉や千葉の病院に入院しているケースもあるとのこと。

この実態については、昨年家族のためにリハビリ病院を探した私も身をもって体験をしました。自宅の近くに大学病院は片手に余るほどあるのに、リハビリ病院は近いところでも電車で2-30分は郊外に出なくてはならず、それもベッドが空くのに1か月近くかかると言われたのです。幸いにして、1週間程度で入れる施設が見つかりましたが、地価も人件費も高い都心で、大規模な介護施設やリハビリ施設を運営することが難しいのは考えてみれば明らかなことでもあり、このまま都心に住み続けて老後は大丈夫なのだろうか…と自分のこととして心配になりました。

医療・介護施設の不足が見込まれる地域の人は、余裕のある地域に移り住めというのは、かなり強引な話ではあり、都市圏の首長からも、受け入れを促された都市の側からも戸惑いの声があがっています。私たち市民にしても、介護が必要になった時に入れる施設がない恐れが高いので引越しを考えては、と言われても、「ちょっと待ってよ…」というのが正直なところでしょう。高齢になって住み慣れた土地を離れたりして環境が大きく変化すると、それがきっかけで認知症になってしまう恐れがあることなども指摘されているのですから。

しかし、消滅可能性都市という話の際もそうですが、日本創成会議の提言は、現実に目を背けたり、小手先の対応策を繰り返しているだけでは、少子高齢化という課題は解決できないということを突き付けています。私たちとしては、最終的には行政の対応にゆだねるしかありませんが、何とかしてくれるだろう、と待つだけではなく、主体的に考えていく、関わっていくきっかけとして、この提言を見てみてもいいのかもしれません。