高齢者雇用安定助成金-利用実態の真相は-

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高齢者の就業機会の拡大について、65歳までの雇用延長を事業者側に義務付ける「高年者雇用安定法」の改正ついては、これまでも何度か触れてきました。この法制度の改正というのは、事業者側に義務を課すという、いわばムチにあたるものと言えます。一方、ムチがあればアメも当然用意されています。今回は、アメの政策のひとつ=高齢者の雇用及び、高齢者が働きやすい職場の整備を行う事業者に対しての助成金の実態について見てみましょう。

名ばかりの高齢者雇用安定助成金

この助成金は「高年齢者雇用安定助成金」というものなのですが、この助成金が名ばかりで昨年度の利用がほとんどなかった実態が明らかになりました。(朝日新聞2014/6/15、東京新聞 2014/6/17)

「高年齢者雇用安定助成金」の内容や仕組みについては、こちらのコラム(65歳雇用延長を迎えて-社会保険労務士 横井祐が労務の実務ポイントを解説-)に詳しく書かれていますのでご参照いただきたいのですが、簡単に言ってしまうと、定年を控えた高齢者を雇い入れた事業主と、高齢者が働きやすいように職場を整備した事業主を支援するというものです。高齢者の転職雇用に対しては一人当たり70万円の支給で2013年度の目標は2025人。職場環境の整備に対しては500万円の支給で945件の目標が設定されていたそうです。
ところが、2013年度の実績は、転職雇用者に対する支給はたったの1件、職場環境整備の助成も48件に過ぎなかったというのです。約70億円の予算のうち99%が使われずに余ったのだそうです。この利用率の低さに関し、厚生労働省の担当者は

「類似の助成金を参考にして予算を組んだが、初年度ということもあり、PR不足だった」(朝日新聞 2014/6/17)
「事業の初年度はなかなか理解してもらうのが難しい。今後は活用してもらえるように周知したい」(東京新聞 2014/6/17)

などとコメントしています。

いくらPRが不足していたとしても、1年間日本全国で1件の利用しかなかったというのは、事業者側のニーズに全くあっていないとか、制度として欠陥があると思われても致し方ありません。今年度からは支給額の上限の変更や、手続きの簡素化、対象の拡大などの改正が行われたとのことですが、どのくらい効果があるものか…
一方、全体の予算は14億円ほど増額されたそうです。

何のための助成金なのか

平成24年度までは「中小企業定年引上げ等奨励金」として、65歳までの継続雇用制度を導入した企業に対して助成金が支給されおり、比較的使い勝手がよいとされ、支給実績も予算の6-7割に達していました。この「定年引上げ等奨励金」とそれを廃止して新たに導入された「雇用安定助成金」の違いは、同じ人を雇い続けるか、新たな人材を迎えるか、にあります。いくらシニアには知識も経験もあるとはいっても、その会社のことを全く知らない人を新たに雇い入れるというのは、そう簡単なことではありません。働く側のシニアにとっても、60歳になって全く異なる環境に身を投じるというのはなかなかできることではないでしょう。どうも、そのあたりに現実とのギャップがありそうです。

そもそも、2013年度の2025人という目標値は、375万人という65歳以上の雇用者の0.05%に過ぎません。ひとりずつ、ひとつの事業者ごとに、取り組みを重ねていくことが大切だということはわかります。しかしながら、全国の中小企業(2012年で386万社、経済センサスより)の0.1%さえ、この補助金を手にすることはできない計算になります。
支給実績1件、65歳以上の雇用者の0.05%、中小企業全体の0.1%以下…こんな数字を見ていると、何のための助成金なのだろうという疑問は膨らむばかりです。