金融資産の「平均」のカラクリ

chokin

みなさんは貯金をいくらお持ちでしょうか?株式や保険などと合わせた総額はどのくらいになりますか?

金融広報中央委員会が公表した2013年の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、1世帯あたりの金融資産(預貯金、有価証券、保険、など、運用または将来に備えて蓄えているもの)平均保有額は1101万円でした。

この調査の結果が発表されるたびに、よその家庭ではそんなに金融資産を持っているのか?!という驚く方も少なくないようです。もちろん、どこの家庭でも1千万円を超える資産を持っているというわけではありません。“平均”というところにミソがあります。

日本では、このような調査結果データなどを見る際に“平均値”が用いられることが多いのですが、突出して大きな値があったり、データ分布の範囲が一定でなかったりする場合には、“平均”という考え方はあまり適していません。10世帯あって全部が1千万円の金融資産を持っている場合でも、10世帯中の半数の5世帯が金融資産ゼロで、残りのうちの4世帯が500万円、最後の1世帯が8千万円持っているという場合でも、“平均値”は同じように1千万円になります。

今回の調査でも、「金融資産を保有していない」という世帯が、実は全体の三分の一近く(31%)あります。一方で、1億円以上という世帯も1%弱ですが存在します。これを“平均”してしまうので、1世帯当たり1100万円という数字になるという訳です。「平均値は少数の高額資産保有世帯によって大きく引き上げられることがあるため、平均値だけで見ると多くの世帯が実感とかけ離れた印象を持つ」と調査結果報告にも書かれています。

このようなときに用いるのが“中央値”。調査結果のデータを少ない順に並べたときにちょうど真ん中に位置する値で、収入や資産のように分布にばらつきがある場合にはより実勢に近い値が出るとされています。今回の調査結果では、中央値は330万円でした。調査対象の半数の世帯は330万円より多い資産を持ち、もう半数の世帯は330万円より金融資産額が少ないということですから、こちらの数字のほうが、私たちの実感値には近いような気がします。

実は、この330万円という中央値は、集計値のある2004年以降で最も低い金額です。この10年の間にはリーマンショックもありましたし、景気の低迷は続いていましたが、金融資産保有額の中央値が400万円を切ったことはなく、昨年の値も450万円でした。一方で、金融資産保有世帯のみの保有金額の中央値は昨年の860万円から今年は900万円へと増加しています。

「金融資産を保有していない」世帯が31%というのは、調査対象となった1963年以来で最多だそうです。『金融資産を保有していない世帯割合が最多だったことについて、金融広報中央委員会は「高収入の世帯でも保有していない比率が増えており、明確な理由は見当たらない」としている』(日本経済新聞 2013/11/7より)とのことですが、少なくとも、アベノミクスによる株価の上昇等の恩恵を受け金融資産を増やしている世帯がある一方で、資産を減らしたり取り崩したりしている世帯も実は少なくない、ということは言えそうです。