IoTただいま進化中

あらゆるモノをインターネットとつないで自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うIoT(Internet of Things)が急速に広がっている。
この用語は、アメリカで活躍するイギリス人IT技術者ケビン・アシュトンが1999年に初めて使った造語というから、比較的新しい言葉であり、概念である。
もちろん、それ以前にもIoTはあった。GEは航空機エンジンやガスタービンなどの自社製品をインターネットに接続して遠隔監視し、顧客に対し運転支援や保守サービスを提供する仕組みを早くから導入していた。
三菱重工でも自家発電機や舶用ディーゼルエンジンなどで、稼働状況を24時間把握して、顧客に同種サービスを提供する仕組みを、20年以上前にスタートさせていたと記憶する。
IoTの源流は、機械・電気メーカーが製品納入後に展開した付加サービスであり、アフターサービス事業分野の拡大と高収益化、他社との差別化などを狙いとしたものであった。

それが2000年代に入ると、ネット環境の充実(大容量高速通信の普及を含む)やセンサー類の精緻化・小型化などIT技術の進化と関連費用の大幅な低減により、次々と面白い事例が現出して来た。
象印マホービンの「みまもりほっとラインiPOT」は2001年にスタートしたが、その誕生秘話を、同社はホームページで次のように紹介している。
「1996年、東京池袋で、病身の息子と看病していた高齢の母親とが亡くなって1ヶ月後に発見されるという悲劇があった。これに心を傷めたある医師が、象印マホービンに日用品を使ってお年寄りの見守りが出来ないかと相談を持ちかけて来られた。象印マホービンでは、炊飯ジャーと電気ポットの2つで実験、その後電気ポットの方が生活リズムをつかみやすいということでポットに絞り込み、試作器を作成した。が、電話線へどうつなぐか発信問題で行き詰った。ある時、開発担当者がNTTドコモのモバイルの広告を見てひらめき、NTTドコモに持ち込んで、協力を得て遂に完成。事業化の段階ではインターネットサービスのノウハウを持つ富士通を加え、異業種協力によるサービス事業を開始した。」
これに刺激され、翌2002年には東京ガスが契約家庭に対し、発信装置付きガスメーターを設置してガス使用状況から安否確認ができるサービスを開始した。
今となっては、いずれも遠い昔の話に思えるが、それだけIoTの進化が急速であったということに他ならない。

2015年6月、東京電力は2020年までに全てのメーターをスマートメーター化し、人手による検針を廃止するとともに、各家庭に電力消費状況をリアルタイムで提供しHEMS(Home Energy Management System)導入を促進・支援する体制を整えると発表した。各家庭で、太陽光発電による発電量や、電気機器毎の電力消費量を詳細に計測し、省エネに取組む時代がやって来るかも知れない。加えて、この仕組みは安否確認や漏電による火災防止・検知など他の目的にも利用可能でもある。

コマツがパワーショベルにGPSを搭載しはじめたのも2001だった。
コマツが建機にGPSを搭載するアイデアを採用した最初の動機は、実は盗難対策だった。1998年頃から建機の盗難が多発したため、盗まれた建機の追跡をしたいと考えた。ところがGPSを搭載してみると、遠隔地から建機にロックすることが可能と気付いた。盗んでもコマツの建機はロックをかけられて使えない、その情報が行き渡って、コマツの建機の盗難件数は激減した。
さらに、建機一台毎の稼働状況が手に取るようにわかることに気が付いた。その情報を顧客への効率化提案やメンテナンスに活かすことで、ビジネスの新たな局面が拓けた。さらに中国のどの地域で何台の建機が稼働しているかの全体像がわかったことで、マーケティングに活かす道も拓かれた。
2014年からコマツはGEと組んで、鉱山資源会社向けに鉱山運行効率化のトータルサービスを提供する事業に取組み始めた。掘削機械、搬送機械のすべての稼働状況を把握、自動制御し、GEのビッグデータで解析してより高効率の運行を目指している。その詳細は、2015年6月に本サイトに掲載した「鉱山運行をめぐってコマツ・日立が激突」にレポートしたので、ご参照願いたい。

さて、果たしてどれだけのモノがIoTとして存在しているのか? あてものになるが、ある推計によれば、現在IoTの数は40億程度らしい。これが2020年には、300億(米調査会社ガートナーの予測)、500億(インテル及びシスコシステムズの予測)、10兆(マイクロソフトの予測)とまちまちであるが、爆発的に広がって行くという点では一致している。そこには大きなビジネスチャンスがある一方、激しい優勝劣敗に見舞われることにもなろう。  
IoTの将来を少し覗いて見よう。
2015年7月GEとNTTドコモは、IoTを活用して橋・道路や水道・ガス・送配電設備など社会インフラの老朽化監視を行う事業を共同展開すると発表した。GEが社会インフラに各種センサーを取り付け、NTTドコモの携帯回線を通じてデータ収集し、ビッグデータを解析することで、破損を事前に予測したり、保守コストを削減することに取組む。
仏保険大手のアクサは、車の保険料を、顧客毎の走行スピード・急ブレーキ・急ハンドルなどの収集データにリンクさせて決定する方式をスイスで採用済だが、こうした保険料設定をグローバルに拡大すること、また生命保険料もウェアラブル端末で収集した健康データにリンクした料金設定にすると表明している。
グーグルは、メガネの脇に搭載した小型カメラに映じた画像の関連情報を眼前に映し出すグーグルグラスを開発したが、市場販売は許可されなかった。現在、コンタクトレンズに微小カメラを組み込む特許をアメリカ特許庁に申請中であり、試作品もできあがっている。
IoTの進化の先には、予想を超えた世界がありそうである。