キューバ陽気な長寿の秘訣

cuva

キューバの首都ハバナにカリブ海沿いに走る幹線道路がある。海風に吹かれながらこの道路を歩いた。南国の陽射しが強い。
海側の歩道沿いに幅1mほどの堤防が続いていて、そこから白い砂浜と海が見下ろせた。砂浜やところどころにある磯の岩で釣り糸を垂れている人がいた。
日昼歩いている人はまばらだが、夕方になると、ここは堤防に腰掛けて海に沈む夕陽を見る恋人たちや家族連れで賑わう。
道路には色とりどりの車が流れている。昔の映画でしか見られない1950年代のアメ車のポンコツも走っている。
道路の向こう側には古いコロニアル風の建物が傷んだまま残っていて、修復中の建物も少なくない。

ある午後、キューバに永住している日本人Kさんの案内で街の公会堂へ行った。
地元の音楽の集いがあるという。公会堂の向かい側の歩道に70歳前後の白人系の年配者が数人タバコを吸いながら立ち話をしていた。
幕が開けると、何とその年配者たちが舞台に出て来た。
控室で心準備することもなく半袖シャツのまま、それぞれピアノ、ギター、コンガなど楽器の位置に付いた。
演奏が始まった。実にテンポ良く軽やかな音楽だ。あの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の世界そのものである。
すると最前列に座っていた80歳代のカップルがよろよろと舞台の前のスペースに進み出て、組んでダンスを踊り始めた。
客席から「いいぞ、いいぞ」と拍手の渦が起こった。とまた一組、同年輩のカップルが前に出て踊り始めた。歩き方は心もとないが、ダンスは様になっている。
2曲目からは観客が総立ちとなり、自分の席で踊る者、通路に出て踊る者ありで、公会堂全体が踊りまくる。
成り行きを見守っていた私の座席の横の通路で、太目の中年の混血女性(肌はやや白め)が一人でダンスしていたが、私を見つけて手招きで誘う。
通路に出てその女性と踊った。ダンスの「振り」は適当だ。女性はニコニコ、勝手にスペイン語で語りかけて来る。
曲が変わると「マリア、面白い男がいるよ。あんたに貸してあげるわ。」と言ったのだと思う。
今度は黒人の痩せた中年女性が私と向かい合って踊り始めた。曲に乗って踊っているうちに、徐々に足幅を広げ、腰を前に出しながらスカートを少しずつたくしあげた。
危ない「振り」だが、どうもこれが流行っているらしい。すぐ近くに5歳ぐらいの可愛い白人の女の子が踊っていた。
この子も足を徐々に広げ、スカートをたくし上げている。これにはびっくりした。キューバの洗礼を受けたと言えようか。

その後、別の場所でパワフルで抜群に歌のうまい若い女性ボーカルのライブに行った。
東の古都サンチャゴ・デ・クーバの小さな音楽スポットでの演奏やダンスも見て回ったが、どこも音楽とダンスは一流で人々は陽気で楽しかった。
サンチャゴ・デ・クーバでは、夜になると公園に沢山の人が出て涼んだり、お喋りを楽しんだりしていた。夜の街も少しも危険を感じない。

社会主義の国だからか、治安が良い。教育(大学や専門学校も)と医療がタダである。キューバは生活レベルは低い。
社会インフラが貧困、住居は狭く電気・水を欠く場合もある。物資も食料も十分ではない。
しかし、最低限ながら食料・日用品の配給があって、スラムも無いし、ストリートチルドレンもいない。
貧乏な国だが、キューバの平均寿命は78歳。乳児死亡率は5/1000人と先進国に引けをとらない(2013年WHO世界保健統計より)。

ヘビースモーカーが多く、栄養不足で野菜や魚を余り食べないのになぜ長寿なのか?
まず、医療福祉が進んでいる。医療福祉の浸透で革命後に寿命が20歳以上も伸びた。

何度も恋をして何度も結婚する人が少なくない。
初婚の相手と添い遂げる人は15%程度。その他は平均3回ぐらい結婚する。離婚しても慰謝料がない。
子供の教育がタダで配給もあるし、女性の就業率も高いので、離婚が悲壮でないと聞いた。それだけ家族関係は複雑になるが、家族を大切にする。

全国の地区コミュニティに老人サークルが組織されている。そこで体操、パーティー、歌やダンスを楽しんでいる。
男は普段からラム酒を飲みながら、木陰でドミノを楽しんでいる。
ほとんどの人が貯金はしない。というより貯金する余裕はないのだが、その日暮らしでも生きていけるようになっている。
孤独老人になった場合は、タダで養護施設に入れて貰える。

こうした全てが長寿の秘訣なのではないか。長寿が楽しみな国に思える。
キューバも高齢化が進行しているのだが、その様相は少し日本とは違うようである。

<参考文献>
板垣真理子著「キューバに行きたい」2011年 新潮社
吉田沙由里著「小さな国の大きな奇跡-キューバ人が心豊かに暮らす理由」2008年 WAVE出版
吉田太郎著「世界がキューバ医療を手本にするわけ」2007年 築地書館