-第3回-(番外編)「年金制度について考えてみた」年金制度概要1

jinko
出典:内閣府「平成24年版高齢社会白書」

はじめに 高齢者活用の施策と年金制度の関係

本コラムをご覧の皆様、こんにちは。
さて、本コラムは、高年齢者の雇用を巡る法制度や助成金等についての話題を扱っているわけですが、今回は番外編として「年金制度について考えてみた」と題する第1回目となります。

 「高年齢者」が就業する場合、一般的に現役時代と比べて働き方に種々の理由により制約原理が働くことになります。
それは高年齢労働者個人の問題であることも勿論ありますが、企業側の人事施策上の事由によって、高年齢労働者に従来とは異なる役割・期待を担ってもらうことになること等によっても生じます。
そして、その結果、端的に言えば、賃金水準が低下するということに繋がっていきます。
確かに高年齢者に対しても、個別に従来と同様の(或いはそれ以上の)役割や期待を担ってもらう人事施策をとる企業も存在しており、必ずしも賃金水準が低下するという事例ばかりではありません。
また、高年齢者の側からむしろ年金受給額との調整や現役引退後のライフスタイルの観点から賃金水準の低下を厭わないということも多くあります。
 しかしながら、いずれにしろ高年齢労働者の就業について考えるとき、年金制度は切っても切れない縁があると思うのです。
ただ、そうした縁には若干の違和感もないわけではありません。なぜなら、誤解を恐れずストレートに表現させてもらえば、

高年齢者雇用安定法、高年齢者雇用安定助成金etc. 高年齢者に日本を支えてもらうための仕組み
公的年金制度 高年齢者の隠居後の生活を日本が支える仕組み

ということで、実は2つは全く真逆のベクトルであるという要素もあるからです。

年金制度とは無縁でなくなった高年齢者労働力問題

 しかしながら、それでもやはり高年齢者の労働力化の問題と年金制度の問題とが無縁ではないことは既に周知のところです。両者が無縁でなくなった主たる理由には、
①平均余命の伸び
②少子高齢化の進展
の2つが挙げられます。
 年金制度旧法(昭和36年制定当時の年金制度を「旧法」と呼ぶこととします。
昭和36年を基点としたのは、現在の拠出型の国民皆年金が初めて実現した年となるためです。
年金旧法については、いずれ触れる機会がありましたら補足させていただきます)施行時の日本人の平均寿命は男性65.32歳、女性70.19歳でしたが、現在では、男性79.94歳、女性86.41歳(厚生労働省による国勢調査、人口動態統計確定数を基礎資料とした生命表等より)となっています。これによって、高年齢者を支える年金財政が逼迫する要因となっているのです。
 
 また、ここに加えて少子高齢化の進展も年金財政問題へ輪をかけています。
「平成24年版 高齢社会白書(内閣府)」(上図)によれば、「65歳以上の高齢人口と20~64歳人口(現役世代)の比率をみてみると、昭和25(1950)年には1人の高齢人口に対して10.0人の現役世代がいたのに対して、平成22(2010)年には高齢者1人に対して現役世代2.6人になっている。
今後、高齢化率は上昇を続け、現役世代の割合は低下し、72(2060)年には、1人の高齢人口に対して1.2人の現役世代という比率になる。
仮に20~69歳を支え手とし、70歳以上を高齢人口として計算してみても、70歳以上の高齢人口1人に対して20~69歳人口1.4人という比率となる」とされています。
とりわけ、2060年には1人の高齢人口に対して1.2人の現役世代という比率になるという結果は非常にショッキングです。
この少子高齢化の進展の問題は、日本の年金制度の設計上の支柱的な考え方の一つである「世代間扶養」という考え方に大きく影響します。

 すなわち、旧法制定時の年金制度は、
①高年齢者を支える期間が短期間
②高年齢者を低負担で支えることができた十分な数の若年(労働力)層といった背景事情があったことに対して、昨今の年金財政においては、
①高年齢者を支える期間の長期化
②高年齢者を高負担でようやく支えることができる限られた数の若年(労働力)層といった制定時とは全く真逆の現象が生じてきていることがよく分かります。

 このため、今後の年金財政を考えるとき、その一つの処方箋として、従来の「労働力」概念の転換が図られているのです。
その一つが、例えば画一的に年齢で区切った労働力・非労働力の考え方からの修正であり、高年齢者の労働力化の推進ということだといえます。

 では、次回の番外編では、上記に簡単にみた問題意識をもとに、世代間扶養を軸とした年金制度の支柱的なコンセプト等についてみていきたいと思います。