-第6回- 「高年齢者雇用安定助成金総括~これからの助成金へ求めることなど②~」

yokoikanban

前回の第5回では、高年齢者雇用安定助成金総括~これからの助成金へ求めることなど①~」と題して、主として、高年齢者活用に対するスタンスを再考と助成金の活用時の留意点といったところをみて参りました。今回は、これからの自社における高年齢者活用策について等の検討を加えて参りたいと考えております。なお、今回が、高年齢者雇用安定助成金を通じて、高年齢者の有効活用についての検討を加えるシリーズの最終回となります。
(次回は「〔番外編〕日本の年金制度についてかんがえてみた」を挟んで高年齢者雇用安定法についての検討を加えていく予定です。

①正社員(60歳以上)と嘱託社員(非正社員である60歳以上の継続雇用者)の評価の有無

※調査の対象:「60歳以上の社員である部下を持つ管理職」

①正社員(60歳以上)と嘱託社員(非正社員である60歳以上の継続雇用者)の評価の有無

②正社員と嘱託社員の評価尺度の構造

②正社員と嘱託社員の評価尺度の構造

③「業績評価」の実施状況

③「業績評価」の実施状況

④「能力評価」の実施状況

④「能力評価」の実施状況

⑤評価制度に感じる2大課題

⑤評価制度に感じる2大課題

(出所:『「高年齢者の部下がいる管理職の評価行動と高年齢者活用の管理職への支援」に関する調査研究報告書』-独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構平成24年度)

【3】数値から感じる課題

私見ながら、以上のアンケート結果から次のような状況をみてとります。
①高年齢者の活用のためには、何らかの評価制度の運用が必要であることに気が付き、評価制度の構築は行っているものの、処遇に評価結果を反映する体系構築までには至っていない状況
②高年齢者の活用のためには、何らかの評価制度の運用が必要であることには気が付いたが、特に高年齢者の働き方を意識した評価制度の構築はしておらず、他の非高年齢者の社員向けの評価制度を流用している。このため、高年齢者の処遇に評価結果をそのまま反映させることが何らかの事情でできないでいる状況
 また、もう一つ、これとは異なる観点から企業における高年齢者活用施策の現状について触れておきます。高年齢者には、これまで雇用区分として「正社員」「嘱託社員」に分けてみて参りましたが、実は、雇用区分とは別に、非高年齢者に求める企業からの期待、役割に対しても次のような特色がみられます。
 それは、高年齢者である社員には、それまでの就業自由度が変わり、期待される役割にも成果への期待の度合いも変更が生じているという現状です。
 すなわち、それまでは出張命令、人事異動、転勤、残業、休日出勤などが当たり前であった就労環境から就労先は限定され、人事異動は少なく、転勤や休日出勤などは全くなくなったり、部下をマネジメントして組織を統括し業績にコミットするという役割と成果に対する企業からの期待値にも大きく変動が生じる高年齢者が多くなるという現状です(参考:高年齢・障害・求職者支援機構「70歳まで働かける企業」基盤作り推進委員会報告書2012年)。

【4】総括と今後への期待

 高年齢者を自社の人材として積極的に迎えざるをえない日本の現状(当コラム第1回参照)からすれば、これから高年齢者の積極活用に動かれる企業としては、高年齢者の人事管理を自社の全体の人事管理の一つとしてどのようにこれを位置付けていくのかについてのポリシーと実施策を策定していくことが求められ、また、既に高年齢者の活用について動いており企業としては、評価と処遇を連動させること等により高年齢者がパフォーマンスを発揮することができるような制度設計と構築が求められていると考えられます(処遇と結びつかない評価制度の運用は実効性に疑問があるためです)。
 もちろん、今回は評価制度のみを取り上げて、しかもかなり大雑把に推論を重ねて参りました。しかし、多くの企業が高年齢者に求める役割、期待がそれまでとは変化する現状と、高年齢者としても就業の自由度に制約が生じてくる現状からしますと、高年齢者の評価をしっかりと実施し、そして着実にこれを処遇に反映させていく仕組みは、真に高年齢者の雇用環境を充実させていくことへとつながっていくものだと考えます。法的にも、雇用関係とは「当事者の一方(労働者)が相手方(企業)に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」(民法623条)わけですから、適切な報酬の支払のためには労務の提供内容の適切は評価が必須となるはずなのです。適切な評価なくして、適切な報酬はなく、従って雇用関係の充実にも至らない結果とつながっていくことは自明のものだといえます。
 そして、高年齢者の活用を推進するための助成金の制度設計への政府への期待もさることながら、個人的には現在、雇用保険法にある「高年齢継続被保険者」という被保険者資格とは異なる被保険者資格、すなわち年齢に限らず高年齢者も一般の被保険者として扱われ、例えば、再就職手当についても一般の被保険者と同等の仕組みの設計を社会が需要できる就労環境になっていくことが目指されると考えます。なお、少々、余談となりますが、高年齢者の再就職手当の制度には、採用企業側へも雇用保険制度を原資とした高年齢者積極採用手当(仮称)とった仕組みを取り入れて、一定の配分を行うということなどはいかがでしょうか?もちろん、こうした雇用保険法上の仕組みが仮に導入されている頃の社会では、高年齢者の雇用保険料も他の一般被保険者と同等に扱われていく社会環境となっていることだろうと想像致します。