-第7回-仕事に対する価値観

tsutsumikanban

仕事上、大したことでもないのに、何か話が食い違って、やり取りをしているうちに、とんでもなく、話がややこしくなって、お互いに絶対譲れなくなって困惑する経験は、どなたにもお持ちではないかと思う。
 この間、間接的な関係でトラブルが発生し、私はとばっちりを喰らって迷惑したという経験に終わったので、それでおしまいなのだが、メールのやり取りというのは得てして、証拠が累積していくので、ますますエスカレートすることが多い。
傍でよく見ていると、それぞれの「仕事に対する考え方」が違うところから、食い違いが広がったように思う。

 そこで「仕事に対する考え方」について考察してみるとこれはなかなか奥が深く、結局、心理学、哲学のお世話にならざるを得ず、最終的には人それぞれが持っている「価値観」に帰着するものということになるだろう。
また、人の生き方というと、その人が就いている「仕事」に現れている。
その人がどうしてその仕事に就き、働きがいを感じているのか、というところを詳しく聴き取るところから、この人の「仕事に対する価値観」が明らかになれば、説明がつくのではないかという気もしてくる。

 人の仕事に対する「価値観」について、アメリカ、MITスローン経営大学院名誉教授のエドガー・H・シャイン先生が研究された「キャリア・アンカー」が手掛かりになる。
 先生は、自分のゼミの学生が、卒業後就いた仕事、いったん仕事に就き、その後転職した仕事、を数年にわたって追跡された結果、それぞれに特徴があることに気づかれ、最初5つのカテゴリーを見つけ、さらに加えていって最終的に8つのカテゴリーを見つけられた。
(「キャリア・アンカー」エドガー・H・シャイン著、金井寿宏訳、白桃書房、参照)

 その8つの「キャリア・アンカー」は、次のコンピテンシーや特徴を持つものである。
①専門・職能別コンピタンス ②全般管理コンピタンス ③自立・独立 ④保障・安定  ⑤企業家的創造性 ⑥奉仕・社会貢献 ⑦純粋な挑戦 ⑧生活様式

 この説明をするのがこのコラムの仕事ではないが、この8つについては実によくできていると思われ、
自分の中にある仕事への価値観、指向性、がこの中のどれだろうか、ということを、これまで就いた仕事について考え、
その仕事に就いている時、どんな気持ちでいただろうか、楽しかったのはなぜだろうか、嫌な気持になったのは、どうしてだろうか、を振り返り、
自分のメモとして紙に書いてみると、本当にいろいろな感慨が浮かんでくるものである。

 その気持ちは、その時々の社会環境、その職場におかれた競合の条件や、人間関係で、変わってくるものであるが、
それだからと言って、どうしても変えられない、捨てられない何ものかが残って、最後には一つに固まるものだとシャイン先生はおっしゃっている。
 私は、最初に入った会社で30余年働いたが、大メーカーの学卒社員として入ったので、
当時の大学卒業率は10数%であったことからしても、「全般管理、経営管理者」としての期待をされているわけで、
今でいうキャリア官僚のように、次々と経営管理者の道を歩まされたものと思っている。
ところが、突然の大転換で、産業カウンセラーの道へ入った時、
人と人とのかかわり合いの中に何かを感じ、相手の気持ちの奥底にあるものに触れ、
そこに関心を持つことによって、相手が問題に気づき、自ら課題を解決するありさまを見届けてゆく嬉しさを見つけて、これこそ「自分自身の天職」であったことに気づいたものである。
 
 プレシニアの皆さんが現在の苦しい環境の中で、自分の生き方のパターンに気づき、自分の天職を見つけ、それを充実させる手段を開拓されていくことを、期待している。