-第6回-後半労働(50歳~80歳) と自己解放期

tsutsumikanban

前半労働の時期、20歳~50歳は、最もエネルギーが盛んな時で、学生から社会人に、
燃えるような希望を持って就職し、先輩の指導を受けながら一人前に成長し、
その実力を広く組織や社会に貢献する一方、
個人としてはパートナーとの出会いを基礎に家族を作り次の世代に引き継いでいく生物としての役割をも果たしていく。
しかしその最盛期の中に、次の価値観の違う成長の時期の種を宿していることに気づかなければならない。

私の50歳を振り返ってみると、49歳の夏に、突然、直属上司から人事部長に転勤だと言われてビックリしたのである。
それまで営業部門一筋で、生産工場との交渉や物流管理から始まり、
事業の企画管理から営業課長、部長へと移ってきて、営業の仲間と一緒に社内外の関係者と連携を取り、顧客対応に終始してきた。
この時代は本当に仕事一辺倒で、「仕事人間」としての成長しか意識していなかったのはお恥ずかしい次第であるが、
実は前半労働の終結の時だったのだ。
幸いなことに私の中に「仕事のできる人間」を広く見極める機会も多くあったことが、
「後半労働」への導入に繋がったのである。

考えてみると、そこから「人を対象とする」ことを専門とする仕事が始まったわけで、
人を社外から採用し社内に配属し評価する仕事から、人を育て人を入れ換える仕事に発展することとなった。
最初の会社の最後に人事の仕事について以来28年がたつが、
会社はいくつも変わり処遇や働き方の態様も、
正社員、嘱託社員、カウンセラー、アドバイザー、コンサルタント、非常勤講師、個人営業主、と変遷したが、
一人一人の人の働き方の成長を支援し、
必要なアドバイスをしたり調整、連携をつけるという点では変わることがなかったと言える。

そこで、「後半労働、50歳~80歳」とはどのような働き方であるかを考えると、
これまでの他者に指示され、評価されながら進める生き方ではなく、
自分の内面にある「なぜ、この仕事をするのか」という生き方である。
外から見える仕事の種類の「外的キャリア」ではなく、「働き方の動機」に中心を置き、
それぞれの個人の「内的キャリア」を進むことによって得られる「自己実現」の達成に、
自分の生き方を見出すことになるのである。
内的キャリアの内容については、人に指示されるのは嫌だ、という「自立」型の人や、
自分の「専門能力」を大切にするためには、
地位や収入の高い仕事に誘われても行かないという「専門志向」の人、
「社会への貢献」を何よりも大切に考えたいという人も、
最近の若い人たちには多く見られるように思われる。
 
このような多様な考え方が成立する「自己実現」の段階に安全に到達するには、
やはり自分への内省を十分にする時間、経験が必要なものであると思う。
第1段階の夢を持ちながら、第2段階の前半労働の入り口で、その時期に適合した働き方の中から、
自分の目標とする生き方・働き方に納得できる妥協と選択、決断をして、それなりの仕事を充実させることであり、
「前半労働の終末」に突如気づくようなことなく、自分の自己実現の方向に向かって、余裕を持って進むことである。
まだまだ体力的にも活動する力は残っているはずであり、
充実した「第3段階」の生き方・働き方が円滑に実現することが出来るものと思われる。

そうすれば、80歳以降の「第4段階」は、それぞれの健康具合、経済具合に従って生活の進め方を選択し、
楽しみとする時間の過ごし方により、幼い子供の境地と同じ遊び心のような解放された生き方の中で、
それぞれの天命に従って新たな世界に旅立っていくことが出来るだろうと思えるのは、誠に気持ちの良いことである。