ベア決着と日本経済の先行き

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3月12日大手企業が基幹労連傘下の各労働組合に対し、賃上げ要求に対する一斉回答を行った。
翌13日には第2列の企業・労組間での最終交渉が行われ、今年の賃上げ交渉の大勢が固まった。
大手の妥結金額は、一時金は満額か満額近くと予想通り。

焦点となっていたベアは、電機大手が4000円の要求に対しそろって2000円。パナソニックは2013年度に一時金特別削減を行ったが、一部を「経営感謝協力金」として4月に返戻する。
自動車はトヨタが4000円の要求に対し2700円。日産は3500円の要求に対し満額。ホンダは3500円の要求に対し2200円。三菱自動車と富士重工は2000円。スズキとダイハツは社員全員に行き渡るベアはしないが、800円を原資に若手の賃金改善を図る。
鉄鋼・造船重機はそろって2年間でベア2000円。これは賃金交渉とその他労働条件交渉を1年置きに行う方式を採っているためである。

ベア実施は6年ぶり。アップ率は6年前のベアの倍以上であり、少なくとも10数年なかったレベルである。
程度の差はあるものの、中小企業にもベア実施が広がりつつある。
全勤労者の36%に達している非正規社員については、労働需給が改善したため、既に今年1月から1~3%の上昇に転じており、また大手人材派遣会社が派遣先会社に対し契約単価3~5%アップを要求していることから、給与改定が幅広く裾野まで浸透して行く見通しとなった。
公務員については民間の給与改定が一巡した後に、人事院が民間に準じた水準アップの勧告を出す運びとなろう。
2012~2013の2年間、震災復興予算捻出のため平均7.8%の特例減額措置が適用されて来たが、3月末で解除されるので、一時金も合わせると10%レベルのアップになろう。

久し振りに明るい歓迎ムードが社会全体に漂っている。
問題は、家計にとっては4月の消費税アップと今後の消費者物価の上昇をカバーできるかどうかであり、日本経済にとっては個人消費が伸びて行くかどうかであろう。

日本経済研究センターの予測では、景気拡大とともに個人消費は堅調に向上に向かっており、消費税アップ後に一時的買い控えがあったとしても、3ヶ月程度で消費は回復すると見ている。
同センターは、問題はむしろ輸出の伸び悩みであると指摘する。円安になっても産業の空洞化が進行した日本からは輸出が思ったように伸びない。
輸入は原油・LNGなどエネルギーの輸入量が増えているうえに、円安によるコスト増とで貿易収支が悪化する状況となっており、日本経済が転換点を迎えていると論じている。

確かに、昨今の企業業績の好転は、10数年にわたる合理化、合併・再編、海外生産へのシフト、不採算事業の縮小・撤退、組織・社員のリストラ、賃金の抑制と非正規社員の活用等々による改革が実効を挙げて来たうえに、輸出企業中心に円安効果が加わった結果である。

基礎体力がついて来たので、今年は労務費増を吸収して行けると思われるが、翌年以降もベアに応じられるかどうかは誰も予想しえない。
円安が続いて行くのか、新興国市場の経済が停滞しないか、中国が金融不安に陥らないか、世界の情勢に影を落とす問題が起こらないか等々、気に懸る外部要因が幾重にも存在する。そうした悪影響をこうむることなく、日本経済運営の舵取りを誤らずやっていけるのかどうか、ことは簡単ではない。
当面する1年が正念場であろう。来年もベアがあることを祈り、期待したい。