ベアの行方と日本経済の再生

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5年ぶりベアを要求

企業業績が軒並み好調である。
連合は企業業績の好調、政府・日銀が年率2%の物価上昇を目指していて実際にデフレ脱却の兆しが見られること(昨年12月の消費者物価指数が前年同期比1.3%上昇、2013年通年でも前年比0.4%上昇と5年ぶりに上昇に転じた)を背景に、定昇2%に加え1%以上のベアを要求する基本方針を打ち出した。
2009年、連合はベア要求を掲げたが、経営側のゼロ回答に押し切られ、その後4年間ベア要求を出せずにいた。
過去4年間、経営合理化や事業構造改革等の会社提案への対応に追われ、雇用を守ることに重点を置かざるを得なかったが、今年5年ぶりにベアを要求する。
 これを受け、各労組が具体的賃金増額要求を出している。
電気連合は足並みを揃えベア4000円を要求。自動車ではトヨタ労組が4000円、ホンダ労組・三菱自動車労組が3500円。鉄鋼は新日鉄住金労組が3500円。NTT労組、JR総連も3500円、郵政労組が3000円をそれぞれ要求している。
(注)一時金の増額要求やその他の労働条件の改善要求については割愛。

 ベア(ベースアップ)とは社員全般の月例給与の水準を上げることを言い、労働生産性の向上に伴う配分増額と物価上昇に見合った実質賃金水準維持の意味とを持つ。
これに対し、定昇(定期昇給)は年々の勤続の積み重ねに対する月例給与の増額で、年功賃金カーブに沿った上昇分である。
日本では定期昇給制度を持った企業が多く、定昇は既定のこととして毎年の労使交渉の対象にしないのが一般的であるが、業績が著しく悪い場合に定昇を見送る労使交渉がなされた例もあり、また定期昇給制度も持たない企業では定昇とベアを区分しない賃上げが行われるので、定昇込みかベアのみか注意が必要である。

 経団連も今年は賃上げの必要を認めながらも、ベアによらない一時金での対応も含め、個々の会社・労組間の交渉に委ねるべきとの見解を示している。
昨年9月から数回にわたり、政府の呼び掛けで政労使会議が開催され、デフレを脱却し経済を再び成長軌道に戻すためには賃上げが必要との共通認識が形成されて来た。
賃上げに消極的であり続けた経営側も今年は応ずる構えであるが、将来に亘って固定費増につながる賃金水準アップ(即ちベア)はできるだけ避けたいとの経営者心理は根強い。
3000円~4000円のベア要求は月例給与の1%程度であり、要求水準が高いとは思われない。3月の妥結の行方が注目される。

なお、公務員の給与は人事院の給与勧告に基づいて決められるが、2009年度以降、増額改定は無かった。
それどころか2009年~2011年の3年間は民間給与レベルが実質的に下がったことにリンクして減額改定された。
また、2012~2013年の2年間は震災復興予算捻出のため平均7.8%の特例減額措置が適用されて来た。今年度はこの特例措置が解除されることが決まっている。
また、民間企業の賃上げに応じた増額改定がなされることになろう。

賃上げが消費増税分に?

さて、今年の賃上げが、本当に日本経済を再び成長軌道に戻すスタートになるのだろうか?
4月には消費税5%が8%になる。消費税増税分を製品価格(総額表示ベース)に上乗せできない企業があれば、その企業が増税分の負担を強いられることになる。
消費税増税分が最終消費財・サービス(総額表示ベース)に上乗せされれば、消費者が増税分の負担を強いられることになる。
そうなると折角の賃上げがその増税分を緩和することに消えてしまいかねない。
肝心の個人消費が伸びて行くか疑問が残る。
とは言え、財政の健全化は喫緊の課題である。
それを先延ばしにすることは、将来の世代に負債を押し付けることになる。
日本経済が再生できるのか、今年は重大な岐路に立っている。