ワーカーの階級制-米・英工場の人事労務管理-

worker

アメリカ・テキサスの海外工場で幾つか面白いことを学んだ。
そこではフォークリフトを生産していた。テキサスという土地柄、工場にはヒスパニック、白人、黒人、ベトナム人が混在していた。
皆が英語を話すのかどうかも定かでない。
溶接、組立、塗装、検査などの様々な職種がいたが、ワーカーの賃金は職種毎に異なっており、
テキサスの職種毎の賃金相場に合わせて支払っていた。

職種ごとの繁閑が生じた折に、ワーカーを解雇するに忍びず、繁忙な職種への転換を命じた。
転換先の職種は元の職種より賃金が安かったが、賃金を下げるのもどうかとの考えで元の賃金のまま新たな職種に就かせた。
すると転換先の職種のワーカーから猛烈な抗議があった。
「なぜ彼の賃金が我々より高いのか」というのである。
日本では温情的措置として大方の納得が得られると思うが、
アメリカでは彼を解雇し、増員が必要な職種に別人を新規採用するのが一般的で、基本的に職種転換はしないと学んだ。

次にスーパーバイザーとワーカーの関係、スーパーバイザーはどこの会社に勤めてもスーパーバイザーとして雇われる。
ワーカーはどこまで行ってもワーカーで、ワーカーからスーバーバイザーに昇格することは一般的には無い。
私は後に、アメリカ北西部でスーパーバイザーがワーカーを怒鳴りつけて仕事をさせているのを目撃したので、
アメリカのスーパーバイザーとはそういう役割と思うに至った。

日本の工場では未熟練工からスタートするが、半熟練、熟練を経て職長に昇格する。
中にはマネージャーまで出世する者も出る。
ワーカーも成長が期待されているし、事実成長する。
アメリカではワーカーはワーカーのままだから成長する意志がない。

そこでテキサスの工場ではワーカーの中から優良な者をスーパーバイザーに登用する制度を設けた。
その結果、やる気を出す者もいてこれは悪くはなかったようである。
最近、海外の人事労務に詳しい小池和男(法政大学名誉教授)の「日本産業社会の神話」を読んでイギリスの工場労働者について知った。
イギリス・マンチェスターの機械工組合では半熟練工と熟練工の間に深い溝がある。
熟練工は地元の訓練校に1年通い、その企業で5年間訓練生として働いた者のみがなれるそうである。
半熟練工から熟練工への昇格は無い(マンチェスターの機械工組合以外では有り得るようだが..)。
イギリスの慣習を持ち込んだであろうアメリカではやはり工場労働者にも階層の壁があるのが普通なのかも知れない。

それはホワイトカラーの世界も一緒である。
日本では大卒も大学院卒も最初は雑巾がけからやらされるが、アメリカではMBA卒等は最初からマネージャーとして採用される。
彼はそのビジネスの実務は知らないがセオリーで判断し意思決定する。
日本の大卒・大学院卒は下積み時代に仕事の細部を知悉するので、マネージャー昇格後は実務家的業務推進や改善・改革を得意とする傾向になる。
組織や事業運営にとってどちらが良いかは難しいところかも知れない。