コラム

  • シニアのための脳の話②―不思議な感情
    私の若い頃に好きだった作家の一人に高見順がいる。戦後期に活躍した著名な作家だが、既に亡くなって久しいので、今の若い人は余り知らないかも知れない。 タレント高見恭子の父親と言えば分るだろうか。いや、娘の高見恭子も既に50代だから、どちらも知らないかも知れない。 そのぐらい古い話で恐縮だが、まだ比較的若かった頃の私の心に刻まれた或るエピソードがあるが、それは高見順に始まる。 高見順は若い頃、川崎駅近くの日本コロンビアに勤めていた。その頃の彼は、来る日も来る日も川崎駅の勤労者の人波の中を工場に通っていた。 その後作家となり、既に60歳近くになっていた高見順は、ある朝、同じ川崎駅に降り立ち、会社に通う勤労者の群れを見た。ラッシュアワー時これから一日の仕事に向かう勤労者たちの顔は憂...