シニアが活躍する面白い会社

シニアが活躍する面白い会社

面白い会社がある。
アメリカはボストン近郊の針製造会社ヴァイタニードル社である。

社員の半分が74歳以上。高齢者を活用するメリットとは

ヴァイタニードル社は社員約40名の小さな会社であるが、社員の半分が74歳以上。最高齢のローザ・フィネガンは99歳だ。元ウェイトレスだった彼女は85歳の時にこの会社で針製造の現場で働き始めた。

今年4月ダイヤモンド社から刊行された「高齢者が働くということ」にこの会社が詳しく紹介されている。著者ケイトリン・リンチは女性の人類学者であるが、数年間にわたってこの会社の調査研究を行い、本にまとめた。

営業職は別として、現場の製造要員は全てシニアである。皆、年金受給者で高齢者向けの公的医療保険制度でカバーされているので、退職金も無ければ医療給付も無い。全員がパートタイマーで時給は最低賃金を少し上回る程度である。

勤務時間は自由で、朝早くから出勤する者もあれば、ゆっくり10時頃に出勤する者もいる。フルタイム働いても良いし、週30時間程度でも良い。稼ぐというほどではないが、小遣いに不自由しないし、自分が役立っていることを実感できる。皆そこで働くことを楽しんでいる。小さな会社なので全員が家族のような仲間だ。おしゃべりも無駄口も許される。仕事の能率が良いとは言えないが、コツコツと着実だ。

賃金が低いから会社の採算も悪くない。1932年の創業から安定経営を続けている。

ヴァイタニードル社は1990年代にベテラン高齢社員を切らなかった。なにぶん若手の新規採用が難しかった。試しに高齢者をパート雇用し始めたが、途中から高齢者雇用専門に変わった。それがメディアの注目を集め、取材・報道されるようになった。

ドイツのドキュメンタリー映画「年金生活者株式会社」が製作され、2009年にNHKのBS世界のドキュメンタリーで「わが工場、96歳のエース」というタイトルで放映された。96歳のエースとは当時のローザ・フィネガンのことだ。

日本にもある高齢者が活躍する企業

日本にも面白い会社がある。岐阜県中津川の㈱加藤製作所だ。家電・自動車部品製造の同社はコスト低減と短納期対応に苦しんでいた。高性能製造設備を導入したので、工場稼働率を上げたい。思案の結果、土日祝日に高齢者を活用することを思い付いた。「年齢制限あり。60歳以上」というチラシで募集広告を打ったところ、応募が殺到した。

製造経験のないシニアを育成しながら職場につけ、365日稼働を実現した。10年前のことである。その後リーマンショック等もあって365日稼働は続けていないが、シニアの活用はすっかり定着し、60代・70代のパートが平日も含め数多く活躍している。

高齢者活用の試みが必ずしも順調に運ぶとは限らない。
横河電機はシニア活用の先駆として有名であった。横河正三社長の発案で、定年(当時57歳)退職したOBが元の職場で働き続けられるよう、1975年に派遣子会社として横河エルダー社を設立した。会社は熟練技能者をそのまま温存できる。退職者は、低収入だが働く場が提供され、能力がある限り幾らでも働き続けることができた(最初は年齢限度なし、その後75歳までとなった)。

しかし、年数が経つとOBが幅を利かせる職場風土面の不具合や次世代への技能伝承が疎かになるなど様々な問題が生じた。業績不振時の2002年に同社は解散され、他の子会社に衣替え・統合されて終止符を打った。解散を決めた当時の内田社長は「ユートピア幻想に過ぎなかった」と締めくくったそうだ。

厚生労働省は毎年「全国高齢者雇用開発コンテスト」を行い、優良事例を表彰している。㈱加藤製作所はH14年度の最優秀賞である。筆者は過去15年間にわたる表彰事例に目を通して見たが、㈱加藤製作所を除けば凡庸なものが多く、ここでぜひ紹介したいというような事例を見い出せなかった。

そこで改めて、前に私のコラムでも取り上げた徳島県上勝町(かみかつちょう)の「つまの葉っぱビジネス」の出色ぶりを認識した。

徳島県の山間の上勝町は人口1800人余の小さな過疎の町である。以前は林業とみかんを生活の糧にしていたがその2つともがダメになったので、料亭の料理の飾りとなる緑の葉や小枝などを採取して料亭に納めるビジネスを思い付き、これが大ヒットして有名になった。途中苦労もあったが、1999年には㈱いろどりを設立、今や年商2億円超に成長している。300種以上の商品(葉っぱ)の注文・出荷・売上情報を共有し、農家のお年寄り・女性が端末を操作して注文に応じた葉っぱの採取・発送を行っている。売上ランキングが競争心を高め、稼ぐ人は年収1000万円を超える。
町おこしのモデルとなり、見学者・研修生を次々と受け入れては、お年寄りが説明・指導に当たっている。(シニア活用.com「心身を活き活きさせるために」2013/12/3)

高齢者には隠れたやる気が潜んでいる。そのやる気をうまく引き出し、方向を与えると思わぬ働きをするのである。